講評 2026年3月
兼題「椿」
総評に代えて
〇冬の山茶花は散る、春の椿は落ちる。しかし混同しているかたが多いようです。「散り椿」「椿散る」といった句がまことにたくさんありました。大小の歳時記で例句をチェックしてから作句に励んでください。
〇垣根に咲くのは主に山茶花。山茶花と椿のありようの違いをしっかり把握しましょう。
〇侘助、寒椿は冬の季語です。
〇花の形容としての「凛として」はもうやめましょう(数句に一句は必ずありました)。花の兼題を出すと必ず「凛として」のオンパレードになってしまいます。ということは、「季語はどんな花でもいい」ということになりませんか。
〇「楚々として」もやたらと目に付きました。
〇単に椿といえば咲いている状態をさします。したがって、「椿咲く」とわざわざいう必要はありません。こういう時は切字の「かな」をうまく使ってみましょう。
〇絵に描いた椿、オイルになった椿は季語としての扱いを受けません。
〇旧かな、新かな混在の句が目立っています。注意しましょう。新旧どちらかに統一したいものです。
〇椿は花どきがかなり長く、いつ見ても一木満開といった風情の花です。つまり、過剰な花であるわけです。梅のつつましさ、桜のいさぎよさとは全く異なった椿のありようにもう少し目を向けて頂きたいと思いました。どんな花であっても「凜とした」「楚々として」で片づけてしまっては、季語がかわいそうです。
1 俳号 和田正尚
雨の中武士椿咲きにけり
4 氏名 原 恵美
古き門椿ひそかに咲きみちて
5 俳号 あらら
ひっそりと地蔵の前の落椿
7 俳号 津島まあや
赤白と夢中で拾う落椿
9 氏名 平野 和江
子らの声響きて嬉し藪椿
10 俳号 渡辺 葉月
紅椿白椿愛づ声あげて
☆櫓山荘の光陰こぼす落椿
櫓山荘は実業家の橋本豊次郎とその妻である俳人の橋本多佳子の新居で、文化サロンの様相を呈しました。美貌と情熱のひと・多佳子と椿はよく似合うかもしれません。
15 氏名 毎熊 正子
白椿両親思ひ手を合はす
16 俳号 松本敬香
楚々と咲く乙女椿の愛しさよ
19 俳号 待元明子
ふんわりと光を纏う落椿
20 氏名 小谷松 直子
川面には鯉と椿の一輪と
降りる駅間違うもよし椿咲き
21 俳号 北麓
阿蘇山のいただき白く椿咲く
23 俳号 濱武由美子
主なき庭に真紅の椿かな
24 氏名 古賀 佐智子
白椿雨を受けつつ楚々と咲く
25 俳号 小平笑夢
☆優しさを幾重に乙女椿かな
椿の中でも乙女椿は本当に愛らしく、和菓子のようなたたずまいを見せてくれます。この句、静かな感嘆がこめられていていいですね。
26 俳号 角文子
母恋し椿の花の咲くを見て
27 俳号 千羽
玄関の椿ひとつをよけて出る
30 氏名 山本 厚子
地団駄を踏む足下に白椿
☆尺八の息に落とされ紅椿
本当にこのようなことがあったわけではないのでしょうが、そう思わせてくれるのが作品の力、俳句の面白さです。
34 俳号 西野悦入
☆霊場の雨降り止まず落椿
☆霊場の雨の径(こみち)や落椿
霊場と落椿が取り合わせられた二句。まことに珍しい取り合わせです。
36 氏名 岡村 典子
竹林を抜けて館の落椿
37 氏名 石原 佐和子
手の中へぽとりと椿命中す
39 氏名 堀江 春代
ぽとぽとと落ちる椿の無常かな
40 俳号 二人静
落椿空を仰ぎてよろこびぬ
42 俳号 鈴木 宏太郎
一日を朗らかに咲く椿かな
44 氏名 松本 啓子
境内のはけども尽きぬ椿かな
45 俳号 小西博子
落椿花手水にて生き返る
46 俳号 根岸さち
とびつきり大きな蕊の椿かな
岩に落ち岩に彩置く椿かな
47 俳号 田中和敬
落椿しばらくはこの輝きで
48 氏名 林 佐知代
遠ざかる足音ぽとり椿落つ
52 俳号 みーたま
落椿その一瞬に出逢いたし
53 氏名 村松 みゆき
紅白の和菓子のような椿かな
56 俳号 三貴子
参道に降るが如しや白椿
62 氏名 星谷 絹代
物置の屋根に落ちるややぶ椿
63 氏名 中野 尋恵
落椿二度目の命そこにあり
64 氏名 小谷 治子
遠くよりひときわ白き椿かな
66 俳号 髙田政子
お点前の静けさ誘う藪椿
68 氏名 谷本 信子
花椿美しいまま土の上
71 俳号 根笈知佐子
☆松風をともに聞きたる椿かな
松風は松を吹く風、そして茶の湯で釜の湯のたぎる音をもいいます。この句、無欲かつ上品にできています。
73 氏名 矢野 裕大
神よりも先に地に敷く落椿
74 俳号 浦崎まゆみ
あの椿目指して子らの駆けてくる
水鏡叩きて椿調べなす
75 俳号 雅月
沢風にほろり落つるや藪椿
浦磯に流れつきたる山椿
76 氏名 飯島 正康
落ちてなお椿の花は椿なり
77 氏名 畑畠 美千代
人知れず道に落ちたる椿かな
79 氏名 北村 貞子
石段の行き着くところ白椿
83 俳号 瀬戸の風
掃き寄せてまだ息づける紅椿
84 俳号 草野野原
お隣りは退院を待つ紅椿
85 俳号 植田良穂
落椿わが人生の姿にて
90 俳号 文月詩架
椿咲くなだらかな坂手をつなぎ
91 俳号 水間水仙
椿咲く便箋の端合わせ折り
92 氏名 松川 しのぶ
空は晴れ真紅の椿落つるなり
93 俳号 米崎 璃津子
手折ってはならぬ廃家の紅椿
あっけなさは潔さかと落椿
95 俳号 伊崎宏子
雨止みてきらきら光る玉椿
97 氏名 谷脇 照美
☆窓越しに整備士の顔山椿
珍しい取り合わせの句です。栽培種ではなく野生の椿をもってきたあたり、かなり細やかな配慮の施された作品でした。
100 俳号 紅花
椿おつ薄き布団に目覚め居て
101 氏名 小林 茂之
紅椿築百年の太き梁
☆白河の関一面の藪椿
奥羽三関の一つ、白河の関。取り澄ました椿ではなくワイルドな椿、しかも「一面」というあたりが思い切っていていいですね。
102 氏名 細川 京子
石段の揺らぐ傍ら落椿
対岸に発電所あり椿濃く
103 氏名 吉井 さえ子
落椿上手に避けて通る犬
104 氏名 足立 ひでみ
やぶ椿丹波の壺に似合ひけり
105 俳号 聖子
紅椿蜜欲る蜂の戦めく
106 俳号 照伝 呼和易道
穏やかな笑顔を見せる椿かな
107 氏名 吉田 鈴子
☆尼寺のつらつら椿日の豊か
尼寺というと読む側は「またか」になりがち。でも、この句は下五のおおらかさでうまく着地できています。
産土の暗き裏山藪椿
108 俳号 古田 啓
今日の日を生きんと光る椿かな
執着を放ちて落つる椿かな
109 氏名 松﨑 亜矢子
水色の花瓶より落ち薮椿
112 氏名 西 義信
温かき師の声ひびく椿かな
115 氏名 雪竹 澄子
踏石に一花落ちおり白椿
116 俳号 浦嶋和子
順に咲き順に落つつらつら椿
118 氏名 木村 絢子
百羅漢白き椿と列をなし
121 氏名 川原 厚子
落椿黄色のしべを 天に向け
122 氏名 疋田 ちづ子
裏道に楚々と咲きたる白椿
123 俳号 西村せつ子
玄関の乙女椿の二輪かな
125 氏名 小野 千早子
紅を差す椿一輪佳しとして
127 俳号 高島實子
断崖や海を背にして薮椿
131 俳号 十勝晴尋
落椿白き波間に潺潺と
冷冷と拾ふ掌落椿
132 俳号 杤尾まほ
一湾の風呼び寄せぬ白椿
夜明けには風の収まり藪椿
133 氏名 三宅 由美子
あたたかき雨滴りぬ白椿
135 俳号 金坂千位子
氏神の杜にうもるる椿かな
137 氏名 田邊 法子
幸せの厚みそれぞれ八重椿
☆落椿拾い集めて予後の庭
庭という場所を句に入れると小さくまとまりがち。しかし、この句の場合、その場所の限定がきいています。神社や山野に出かけるほど体力が戻ってきていないことをさり気なくあらわし得たからです。
今日の日の重さに堪える白椿
139 俳号 輝輝
つらつら椿ひとりごと言い空をみつ
140 俳号 長澤きよみ
肥後椿ギター教室ひつそりと
一万歩届きそうだわ藪椿
141 氏名 小栁 美千代
つくばいにこぼれて揺らぐ椿かな
143 俳号 橋本千蓼
陽だまりの乙女椿もくつろぎぬ
145 俳号 案山子
見比べる藪と乙女の椿かな
146 氏名 笠倉 まゆみ
石垣の上を滑りぬ落椿
147 俳号 都茂乎
紅椿生きる時間をせわしくす
148 氏名 青木 豊江
椿咲く旅籠に残る火縄銃
ふるさとは潮のにほひや藪椿
149 俳号 齋藤弘子
時重ね匠の域や白椿
150 氏名 藤田 清美
陽を浴びて一輪二輪椿かな
152 俳号 冨湖
五百種の椿はぐくむ大地かな
☆ベビーカーの屋根にぽつりと紅椿
ぽつりがいいか、もう少し重量感のあるオノマトペ(擬音語、擬態語)がいいか、迷うところです。
153 俳号 小野公柄
教会の四弁の椿篤きかな
154 俳号 椎木 雅子
満開の椿見上げて箸を持つ
笛の音に心躍らす八重椿
155 俳号 田中恵子
落椿掃き寄せられて尚紅く
尼寺にひときわ紅く山椿
157 俳号 稲川 優子
火の国に生まれし椿逞しき
158 氏名 桑原 堆子
今朝の雪赤い椿は此処にあり
160 俳号 おふさ観音雨堤
そのままの姿崩れず落椿
164 氏名 岡田 慎太郎
椿より椿へあそぶ鳥の影
☆湯の町にけぶる家並藪椿
この季語で温泉の街を登場させた例は少ないため、目を惹かれました。湯けむりと朧月夜が合体したかのようです。
165 氏名 横松 きよみ
手の平に拾いきれない椿かな
167 氏名 満田 純代
学び舎に紅白椿並びをり
168 俳号 おおもと文薫
朝陽浴びきらきら光る落椿
169 俳号 脇田弥生
山道を登れば椿見守りぬ
170 氏名 河崎 柳子
紅椿落ちて三点明るうす
171 俳号 大久保恭子
今にいて今に咲きゐる紅椿
172 俳号 長岡純子
父母への思慕つのるばかりや紅椿
裏山に椿びっしり三世代
174 俳号 城 直
父思う大きな椿花咲いていて
177 俳号 川端日出子
トンネルを抜けて県境藪椿
182 氏名 木村 裕子
落ちて尚空を見上げる椿かな
183 氏名 御手洗 陽子
落ちてなお日に向かいおる藪椿
184 俳号 Tetsuko Terasawa (寺澤哲子)
水盤の椿に触れてみたき指
185 俳号 縞錆
天井の低き茶房の紅椿
188 氏名 穴繁 惠美子
水盤に彩りとどむ落椿
189 俳号 ゆうだち
参道の椿落ちれば葉の昏き
191 俳号 野﨑柴胡
どことなく風やわらぎて椿咲く
193 氏名 比嘉 啓文
風の中椿の紅のゆるぎなし
196 俳号 山本五之三
足挫きたるも曇天藪椿
☆引越しの積み終わりてや紅椿
あとはこの地を去るばかり、ですね。ドライな詠みぶりがいいと思いました。
198 俳号 三和まこ
やぶ椿子らの通学見守りて
200 俳号 鈴木美和子
薄暗い椿の門をくぐり抜け
うつむいて目を合わせない白椿
202 俳号 白尾恵子
漆喰の壁に紅さす椿かな
ぼんやりと闇夜に浮かぶ椿なり
203 氏名 植森 恵美子
ひとふきの風に遊ばれ椿落つ
204 氏名 髙 理恵
引越しのトラック二台椿咲く
205 俳号 伴 めぐみ
落椿日の沈みても地を照らし
206 氏名 津森 鈴子
青空にいのちみなぎる椿かな
ひと知れず光を放つ山椿
207 氏名 久保田 弘子
掃きあとを歩む神社や紅椿
食堂の灯り消す窓紅椿
208 氏名 飯田 朱美
水上の落椿みな誇らしげ
209 氏名 駒木 典子
爺と行く子ども食堂藪椿
210 俳号 佐藤嘉津雪
友の家のめぐりを照らす椿かな
211 俳号 水島五月
さざれ石を綾なして果つ落椿
☆古寺に乙女椿の仄明かし
上五、四音の言葉+「に」にするとだいたいが説明になるのですが、この句ではうまくいっています。とても上品に仕上がっている作品です。
うぶすなの手水を埋める落椿
212 俳号 長尾笑元
荒れ寺の庭の片隅白椿
袂あげそっと挿し込む白椿
214 氏名 矢橋 徳子
椿咲くいつの間にやら高校生
幼子の掌一杯落椿
215 俳号 春うらら
足止めて挨拶交わす姫椿
息子へと綴る日記やつらつら椿
216 俳号 末 博子
ぽたぽたと落ちる椿の多きこと
219 俳号 大樹佐保
賑わいのスワンボートを背に椿
湖畔にて仔犬抱き上げ八重椿
220 氏名 菅野 純紘
おおらかに咲き放題や大椿
221 俳号 田中多加代
紅椿枝にも地にも自己主張
222 氏名 齊藤 健一
落ちてこそ真紅の椿かがやけり
224 俳号 志方早葉
白髪に乙女椿をそっと付け
225 俳号 徳永恵楓
紅椿われにも同じ血汐あり
落椿天に向かいて堂々と
229 俳号 桑原真理
☆ひしめいて上を下への椿かな
まことに椿らしい。この花の咲き方をじゅうぶん描き得た作品と思われます。
231 俳号 高鍋春子
城山の元気いっぱい藪椿
232 氏名 桐山 典子
白椿病み明けの朝咲きにけり
234 俳号 白房
いつ迄も既読にならず藪椿
肥後椿落ちて雀のたじろがず
235 俳号 西山レモン
よく来たと我を迎えし椿かな
238 俳号 塩田みどり
しまなみの杜の椿や海の音
239 氏名 本間 勝
紅ほのと夕日に映える白椿
241 俳号 桜井 伸
潮騒のとほく聞こゆる椿かな
淡き緋の椿をたたへひかり堂
☆ひんやりと夕日の中の椿かな
春とはいえ、夕刻が近づいてくると冷えてくるころ。「ひんやりと」は天候のみならず、椿の性をもあらわしているのかもしれません。
242 氏名 山田 ひろみ
駐車場いつもの椿もう見えず
246 俳号 木本天祐
トンネルの向こうに友と白椿
248 氏名 檜山 八穗子
参道に吾を迎ふる椿かな
249 俳号 百 博泉
黒髪のほつれ解くは椿かな
250 俳号 兵頭光子
石段のひとつひとつに落椿
淹れたての紅茶と空と椿かな
251 氏名 藤川 知之
雨粒を弾いて椿たる矜持
252 氏名 寺島 裕之
履きなれぬ革靴の列落椿
253 氏名 平田 和美
☆神苑を統ぶる椿となりにけり
ほかの花では神苑を統括するのは難しいかも、と思わせてくれた句です。シンプルな詠みぶりがいい。
落椿神苑深く鎮めたる
256 俳号 いけした きよこ
ふんわりと咲く白椿光さす
257 氏名 久都間 繁
卒業の門出にひらく八重椿
259 氏名 澤邊 義典
外灯に浮かぶ椿を数えたり
260 俳号 カモミール
☆落椿たゆたうてより水の旅
原句、旧かな遣いのミスがありました。音便にご注意ください。 食ふて → 食うて が正しい
無住寺の粗き石段落椿
261 俳号 矢羽田兎海
薮椿鳥も子どもも集りて
母と往きし鎮守の森よ白椿
262 氏名 千葉 明子
耳元に物言いたげな椿かな
