講評 2026年6月

兼題「薔薇」「汗」

総評に代えて

〇一句の中に「~して~した」というように、動詞をたっぷり入れたものが目立ちました。動詞はできれば一つ、多くても二つにとどめてください。動詞が多すぎると「述べまくり」の句になりがちです。
〇薔薇は舞台上でかわす花束などにあるものは、季節感が乏しいと思ってください。
〇花について「色とりどり」はもうやめましょう。
〇同じく花について。このところ、「空家だけれど花は咲き誇っている」という投句が日本全国ではやりまくりです。ちょっと視点を変えてみませんか。皆さんやってますので、もっとオリジナリティを。
〇薔薇は漢字で書きたいものです。カタカナ表記はあまり美しくありません。
〇「汗」は「運動したから汗をかいた」「畑仕事をしたから汗をかいた」といった報告ではなく、その汗がご自分にもたらした何らかの感慨をそっと描いてみてください。
〇汗は人間のものだけが俳句の季語になります。したがって、牛や馬等のかいた汗は季語としては扱われません。
〇「草刈」等、草にかかわるものはたいてい季語になっています。必ず、歳時記か辞書でたしかめてください。一句の中に季語は一つ、が原則です。
〇汗は夏一季の季語です。「冬の汗」などという用い方はふつうしません。
〇「手に汗握る」は卒業しましょう。手垢のついたフレーズです。
〇「母許」(ははがり)は、言葉としてすでに「母のもとに」という意味が入っていますので「へ」を付ける必要はありません。
〇花について「凜とした」という表現は減ったように思います。いいことだと思います。どの花も「凛とした」では、どの花の季語でもいいということになりますので。

櫂 未知子

1 俳号 和田正尚
☆漁火の腕(かいな)の汗を照らしけり
烏賊釣船でしょうか。珍しい汗の句です。

5 俳号 下總和沙
☆手鏡を翳す向こうに薔薇散りぬ
なかなかお洒落な句です。ドラマの一シーンのよう。
汗の香も白き花なる佳人かな

8 俳号 津島まあや
お向かいの家まで匂う薔薇の香よ

9 俳号 松本敬香
夕闇の真紅の薔薇に一目惚れ

13 氏名 小谷松 直子
☆薔薇園で買うハンカチも薔薇模様
なるほど、です。ただ、このパターン、ないわけではありません。

15 氏名 江口 美代子
蔓薔薇や誘引されて寄りそつて

18 氏名 川原 厚子
寿ぎの薔薇のアーチをくぐり行く

21 氏名 石原 直江
薔薇の花香り豊けく埋め尽くし

23 俳号 渡辺 葉月
薔薇香る居留地跡の石畳
☆授乳する母子の汗の美しき

何か懐かしいようなシーン。聖母子像のようで心惹かれます。幸福を一枚の絵にすれば、この句のようになるのでしょう。

24 俳号 千羽
拾ひ来し枝にひとつの薔薇ひらく

26 俳号 平野和江
☆汗落ちて講義ノートの文字滲む
「ああ、そういうことってあったなあ」と懐かしく思う人が多そうな句ですね。教室に冷房がなかった時代を思いました。

28 氏名 古賀 佐智子
汗拭いて影に一列電車待つ

31 氏名 前原 由美子
幼子の額に汗して眠りをり

32 俳号 美秋
庭仕事ゴム手袋に汗溜まり

33 氏名 松本 啓子
汗ひかるバトンを渡し笑顔かな

35 俳号 啓子
薔薇園の良き香に元気もらひけり

37 氏名 木村 絢子
汗涼し京の町家の通し土間
☆大空に太鼓打ち込む玉の汗

たくましさに溢れた句。「無法松の一生」のようですね。躍動感があります。

39 俳号 榊間 裕
曇り空真紅の薔薇に心浮く

41 俳号 西山レモン
薔薇園の特選一つ決めがたし
☆帰宅児は汗ふきもせず喋りだす

「ねえ、聞いて聞いて聞いて」と気がはやったのでしょう。学校が好きなお子さんなのですね。

42 氏名 畑畠 美千代
汗の量上衣にしみて笑顔あり

48 氏名 比嘉 啓文
風わたる薔薇の花びらこぼれけり
シーサーの見守る庭に汗ひかる

49 俳号 大木悠子
今朝はただ硝子の瓶に薔薇一枝

50 氏名 小野 幸代
汗かいて寝ている子らとだんご虫

54 俳号 小西博子
頂上を目指す夫婦の汗愛し

55 氏名 橋本 百花
汗光るホームベースの土煙

56 俳号 杤尾まほ
一輪の黒薔薇ルソー回顧録
家中に避難の薔薇嵐の夜

58 俳号 瀬戸の風
☆薔薇ひらく気配のほかは何もなく
なかなか意味深な句。一篇のエッセイが書けそうな雰囲気がありますね。よけいなことを言っていないよろしさがあります。
汗ひとつ落ちて道具の重さ知る
風うけて汗のひかりの額かな

59 俳号 草野野原
作業着に塩の沿線汗の跡

62 俳号 冨田敦子
颯爽と前を行く人シャツの汗

63 俳号 ひろこ
オールドローズくれゆく庭に匂い立つ

65 氏名 松川 しのぶ
抱き慣れぬ孫抱く祖父の汗ばみて

66 俳号 北村 貞子
車椅子押してくぐるや薔薇の門

67 氏名 疋田 ちづ子
☆「ただいま」と同時に汗の匂ひせり
中学生か高校生、しかも男子なのでしょう。不快な汗の匂いではなく、生きているたくましさに満ちた句だと思いました。

69 氏名 小谷 治子
白薔薇やいつまで続く不眠症

71 氏名 小林 茂之
つるばらの垣根小さな歯科医院
じわじわと汗の出てくる睨めっこ

72 俳号 西田佳代
花の蜜薔薇の中にもあふれたり

74 氏名 村上 紘子
☆新宿の出口わからず玉の汗
日本一の乗降客がいるという新宿駅。この句に頷く人はかなりいるのではないでしょうか。

75 俳号 西野悦入
母の忌の薔薇美しくとこしなへ

76 氏名 秋山 久美子
玉の汗手拭いずらり物干し場

77 俳号 水間水仙
一斉に駆け戻る児ら汗光る

78 氏名 藤原 克敏
谷津に咲く薔薇の楽園すがすがし

79 俳号 木本天祐
汗どつと座席の犬の鳴き止まず

81 俳号 中平和子
☆宅配の汗が染みたる荷物かな
おおむね若い男性が運んでくれる荷物。彼らの汗とともに心づくしの品がわれわれのもとに届きます。

82 俳号 根岸さち
園児帽薔薇のトンネル通過中

83 俳号 輝輝
砂浜に寝れば足の裏にも玉の汗

85 俳号 三貴子
天守閣見下ろす町に汗忘る

87 俳号 匡華
喝采の薔薇の花びら舞う空へ

89 俳号 彩冬子
空に浮く薔薇のアーチは深紅なり

90 氏名 小田川 浩三
塾終えて夕日に向かう徒歩の汗

93 俳号 橋本千蓼
☆薔薇散りて静かな庭に戻りけり
桜の句にもこのパターンはありますが、薔薇もたしかにそうだと肯えました。

94 俳号 伊崎宏子
廃屋の垣根越しなる赤き薔薇

95 俳号 岡本えい子
汗だくや太陽浴びて走る孫

96 俳号 仁極残
大粒の汗と混ざりし雨の玉

97 氏名 毎熊 正子
薔薇園や孫の笑顔に日差しさす

98 俳号 智子
彼の手に歳の数程薔薇の花

99 俳号 冨湖
口元に汗フルートのぐらぐらと

100 俳号 浦嶋和子
もの言わぬ一輪の薔薇もの伝え

101 俳号 廣田貞子
グランドに礼する顔の汗光る

102 氏名 御手洗 陽子
おいでませ宇部空港に薔薇溢れ

105 氏名 南 功治
☆薔薇数輪神々しくも競い合い
「神々しくも」が少し大げさで、そしてかすかな皮肉もあって面白い作品です。

106 俳号 浦崎まゆみ
薔薇咲けり植えたる父の歳をこえ

107 俳号 梓 初音
浜風に飛び散る汗や応援歌

108 俳号 十勝晴尋
病棟へ薔薇一輪の童入り

113 氏名 窪田 洋子
薔薇一輪添えるものは不用なり

114 俳号 金坂千位子
薔薇白し今朝の香煙真直ぐに

115 俳号 細川京子
夫が接ぎ妻が育み薔薇豊か

117 俳号 寺崎紅花
汗拭きて髪を手櫛の女学生

118 氏名 笠倉 まゆみ
隣合う庭に咲く薔薇おなじ色

119 俳号 谷ちか子
子の想い込められし薔薇光満つ

120 俳号 志方早葉
待つ友に汗拭いつつ急ぎけり

121 俳号 鈴木美和子
手触りの滑らかそうな赤い薔薇

123 俳号 田中恵子
脇役になってみたいと思う薔薇

125 氏名 吉田 鈴子
太陽の塔を背(そびら)に薔薇香る

126 俳号 二人静
手水舎に一面の薔薇香り立つ

128 俳号 中田のばら
☆薔薇垣に保護猫ポスタ-褪せてあり
「褪せて」がちょっと切ない。猫たちは安住の地を見出したのでしょうか。

129 氏名 富永 美智子
薔薇を撮る近く遠くに身を構え

130 氏名 穴繁 惠美子
背中をば流るる汗や猫通る

131 氏名 青木 豊江
賜りし薔薇一輪のかをりかな

132 俳号 西村せつ子
足場解く腕に力玉の汗

134 俳号 前岡ちか子
気がつくと沈む夕日に汗の顔

135 氏名 千田 洋子
夕闇にぽっと灯れる黄薔薇かな

136 氏名 千葉 明子
薔薇咲くや胸の奥より風生まる
古代へと心遊ばせ汗乾く

137 俳号 徳永恵楓
☆新調のブラウスに汗それも良し
「ちょっと嫌だな、でもそれでもいいか」と惑うこころ。その心の揺れが面白い作品です。

138 氏名 駒木 典子
汗の児やパズルをはめて日本地図

139 氏名 小野 千早子
大らかに薔薇の群生広がりぬ
汗にじむ大空の雲はてしなく

140 俳号 長澤きよみ
信楽の狸うづもる薔薇の香に
☆投函の小径白薔薇かをりけり

白薔薇だからいいのですね、この句は。紅薔薇ですとラブレターの雰囲気が出過ぎてしまうかもしれません。

141 俳号 Hiroyuki Terashima
バスを待つ繋ぐ手と手と汗拭く手

144 俳号 長岡純子
大人びし子の髪汗にはりついて

145 俳号 Tetsuko Terasawa (寺澤哲子)
白き薔薇父の墓石に枝伸ばし

146 氏名 長松 素子
訪へば薔薇のアーチに迎へられ

147 俳号 ゆふだち
どこまでもどこまでも行く野ばら道

149 氏名 鈴木 康正
汗ぬぐい青空見上げコーラかな

153 氏名 田邊 法子
☆咲き切ってしどけなき薔薇ありにけり
意外と珍しい薔薇の句です。ピーク時の薔薇ではなく、終焉期のゆるんだ薔薇を描くには、それなりの技術が必要です。
薔薇園を抜け貴婦人のごと歩む

157 氏名 星谷 絹代
七人の小人の並ぶ薔薇の門

159 俳号 大久保恭子
☆木の幹を抱くに似たり薔薇百本
まことに珍しい上五中七。薔薇のロマンティックさを排除した点において、似た句を見た覚えがありません。
ガラス吹く頰もまん丸玉の汗

160 俳号 中村 千恵子
学び舎の印となりぬ白き薔薇

161 俳号 植森恵美子
五時過ぎて少しの涼に汗ひきぬ

163 氏名 西 義信
手習いの和紙の真中に汗にじむ

165 俳号 塩田みどり
独り居の薔薇眠らせて雨ばかり

166 俳号 伴 めぐみ
自転車の通勤夫の汗光る

167 俳号 子午線
明日の衣装汗かきながらアイロンかけ

170 氏名 宮沢 ゆかり
鉢植えの薔薇が迎える友の家
頂きへあともう少し玉の汗

171 俳号 NICO
病院の中庭に咲く野薔薇かな

172 俳号 野﨑柴胡
歩数計見入る目もとに熱き汗

173 俳号 三和まこ
献労や目にまではいる玉の汗

177 氏名 檜山 八穗子
潔く鋏入れたり薔薇一輪

179 氏名 藤田 清美
薔薇の園見知らぬ人と会釈かな

181 氏名 桑原 堆子
間に合えと電車に乗れば汗にじむ

182 氏名 満田 純代
薔薇アーチ見上げた空の青さかな

183 氏名 林 佐知代
☆新聞に包み持たせし庭の薔薇
「庭の」がちょっと惜しい。薔薇を得た場所を確定させる必要はありません。

184 氏名 小栁 美千代
吹きガラス握る両手や玉の汗

185 俳号 白尾恵子
☆臨月の子と癒されし薔薇まつり
元の句は「子」ではなく「娘」でした。しかし、臨月といえば女性に決まってますので……。

186 氏名 山田 ひろみ
☆滂沱たる汗エプロンの袖で拭く
割烹着型のエプロンなのでしょう。家庭の一シーンをうまく切り取ってきました。

189 俳号 聖子
☆薔薇園のベンチはどこも薔薇にむき
なるほど、と思いますね。ベンチの向きに気付いた作者も偉いと思いました。
授乳する汗の臭ひし胸広げ

190 俳号 小野公柄
頂きに薔薇の香りや若狭湾

191 俳号 雅月
ばらの園ワイングラスも耀うて

193 俳号 稲川 優子
江ノ電は異人の汗の香り乗せ

198 俳号 おおもと文薫
帰り道そっと握る手汗ばみて

199 俳号 菅野純紘
☆汗ばむや手動ポンプについ夢中
わかります、わかります、、この気持ち。手動ポンプって、なぜあんなに人を夢中にさせるのでしょう。ユーモアがあって、楽しく読ませて頂きました。
薔薇咲くや知られたくなき我が孤独

204 氏名 藤川 知之
薔薇に畏怖父の生き方観てしまい

205 俳号 久保田弘子
持ち帰り可の薔薇もあり子供食堂

206 俳号 美紗
回覧を入れる手止める八重の薔薇

207 俳号 川端日出子
発表終ヘ安堵の汗の引きにけり

210 氏名 矢橋 徳子
主無き鉢に大輪黄薔薇かな

212 俳号 高島實子
一冊の手渡し訪問玉の汗

213 俳号 春うらら
日曜の薔薇の赤濃く見えにけり
☆薔薇の咲く名もなき者を見下して

「咲く」は蛇足かもしれません(花は咲くものですから)。薔薇の何となく偉そうな雰囲気をよく言い留めました。

215 氏名 澤邊 義典
駐車場サイドミラーにゆれる薔薇

216 氏名 本間 勝
坂道を漕ぎたる汗の美しき

217 俳号 山本五之三
薔薇垣や週に一日開く茶房
市民向け哲学講座薔薇の門

218 俳号 脇田弥生
寄港地へ桟橋渡る薔薇の道

219 俳号 カモミール
薔薇の門かつて紡績工場跡

220 氏名 黒岩 雅弘
久々の掃除無心に顔は汗

222 氏名 山口 哲弘
愛犬の望む行き先薔薇の園

223 俳号 水島五月
☆紅薔薇の襞を覗けばpathos見ゆ
中七の行動力が面白い。パトスは俳句では使いにくい言葉ですが、この句の場合、無理なくはまっているように思います。
玉の汗わが肉体は生けるらし

230 俳号 加賀 靖彦
どうせなら玉でかきたい汗ひとつ

232 俳号 兵頭光子
薔薇に置くまろきしずくに映る雲

234 氏名 義久 福代
紺シャツに汗の汐有る左官かな

236 氏名 岡田 慎太郎
☆ヘルメットの内より汗の垂れてきぬ
「ああ、わかる、わかる」と共感するかたが多そう。何とも気持ちが悪い、しかし、それなりに危険な場所だからヘルメットを取るわけにも行かない。そのつらさがこの句を面白くしています。 薔薇園に写しあひたる母子かな

240 俳号 長尾笑元
一筋の汗や鳩尾流れ行く

241 氏名 飯田 朱美
薔薇園のアーチくぐって薔薇続く

245 俳号 矢羽田 兎海
紅ひきてただ一輪の薔薇を待つ

247 俳号 田中多加代
薔薇垣や主なきとて咲き誇る

248 俳号 にっこり月子
汗の手をぬぐひて祝儀袋出す

249 俳号 縞
屋上の五体投地の汗のあと