講評 2024年8月兼題「新涼」「コスモス」

2024年8月の投句につき、選を申し上げます。まだ「生長の家」のネット句会の選について、選者が慣れていない部分があることをお許しください。ふつうは、何千句来ようが、何万句来ようが「何句だけ選ぶ」というように容赦なく選んでしまうのですが、このページにつきましては未だスタートラインに立ったばかり。選ぶこと自体は簡単なのかもしれないのですが、まだ二回目ということで、ちょっと悩んだりもしております。よろしくお付き合いくださいませ。

櫂 未知子

では、特選にしたかった句から。

新涼やしづしづと踏む石畳  水島五月
「新涼」の持つ、ほんの少しおごそかな雰囲気をよく生かし得た作品でした。

新涼のひかりをかへす聴診器  桜井伸
患者さんはつねに少し不安を抱えているものです。しかし、ここでは「ひかりをかへす」、なんと美しい言葉でしょう。うん、素敵。

螺工場多き町にて涼新た  薮下詩乃
「螺」、おそらくネジですね。新涼とは最も遠き雰囲気の町を描いたところが、この句の素晴らしさです。

風孕む巫女の袂や秋涼し  西野悦子
「巫女俳句」は、実はたくさんあります。しかし、この句の素晴らしさはやはり「袂」でしょうか。ひそやかかつ華やかな句でした。

新涼の大きな月と帰りけり 長澤きよみ
まことおおらかで、しかし、納得のゆく句。こういった作品は好き嫌いでいえば評価が分かれそうですが、私は「大好き」と声を大にして言いたいと思います。

新涼や空へ空へと組む足場 小林茂之
この句も素晴らしいです。ものを建てる時に組む「足場」をどう評価するかについては意見が分かれそうですが、私は「足場は一種の美学」と主張したいですね。

次に、一般選として。
コスモスや黒白つけることもなし 水島五月
新涼の上弦の月いと静か 千葉明子
新涼の風さやさやと茶筅ふる 穴繁恵美子
新涼や雲は流れて柔らかき 井上貴春
コスモスに静けき風の吹くところ 北見薄荷
愛犬の名を呼べばコスモス揺れて 北見薄荷
コスモスと同じ背丈の通学路 北見薄荷
真向ひに石鎚山の涼新た 塩田みどり
コスモスの仔牛の鼻にふれにけり 桜井伸
新涼の木々渉る風頬に受け 本間勝
秋桜や終業ベルの良き響き 田邊法子
東屋を風色に染め秋涼し 矢橋徳子
門口へ誘うように秋桜 多加代
ただいまとサブレ携へ秋桜 駒木典子
新涼や確かな歩み九十九髪 鈴木美和子
新涼や波打ち際で遊ぶ子ら 疋田ちづ子
新涼や型の工場に螺工場 薮下詩乃
新涼の空うすくあり雲もまた 西野悦子
ほつれ毛のなびく夕べの秋涼し 西野悦子
美容院鏡の中の涼新た 長澤きよみ
朝摘みのブラックベリー涼新た 岡村典子
新涼やアラビアータのほの辛さ 北村貞子