講評 2024年9月
兼題「茸」「新米」
俳号 大樹佐保
菜園の隅に怪しき茸かな
☆新米のまぶしき白に声あがる
思わず歓声が上がったのでしょう。すこやかな作品です。
俳号 佳月
新米を七分によそう夕ごはん
俳号 井上あずき
香り立つ松茸の椀懐かしき
俳号 小池聖明
新米の炊ける夕餉の温かさ
俳号 富海善風
手間暇をかけた新米おし抱く
俳号 川端日出子
☆煙茸人に踏ませて増やしけり
外皮が破れると胞子が飛び出す「煙茸」。人に踏んでもらえばもっと増えるのでは、という発想がユニーク。
俳号 水島五月
☆ずぶずぶと我を吸ひ込む月夜茸
発光する「月夜茸」。ミステリアスで素敵ですが、猛毒です。茸に誘惑されているかの詠み方が面白い。
俳号 鈴木美和子
江ノ島の草むら掃除白茸
笑み交わす揃いの器茸飯
氏名 久都間 繁
茸狩り籠に溢れる森の色
氏名 岡田 慎太郎
☆道端のくさびらに触れ爪黒し
「くさびら」は茸の古名。食用か猛毒かはわかりませんが、茸で「爪」を染めてしまったところに少しだけ後悔が見えます。
俳号 薮下詩乃
林道のスギヒラタケの仄白き
氏名 駒木 典子
今年米その一粒の透き通る
遊歩道茸真白き傘さして
俳号 寺田裕子
新米をようやく手にし仏壇へ
俳号 西山レモン
☆籠だけが立派すぎたる茸取り
そしてちっとも採れない。なんともユーモラスな句でした。
氏名 森岡 淳一
新米を食べて心も新たにし
氏名 稲葉 文子
茸採りもんぺ姿の母恋し
☆裏山にそろりそろりと茸採り
たしかに「茸取り」はにぎにぎしく行うものではありません。取れるかどうかわからず、微妙におっかなびっくりですね。
俳号 十勝 晴尋
貰ひもの鍋に放りてきのこ汁
氏名 矢橋 徳子
この子等も茸も都会育ちかな
北限の新米待ちぬ店の棚
氏名 百留 博子
苔の上不思議な色はきのこなり
俳号 桜井伸
☆神棚の榊あたらし今年米
豊年を喜び、「榊」も新しくしたのでしょう。仏壇を詠んだ句がほとんどだった中で、かなり新鮮でした。
山の師の鑑定を待つ茸かな
俳号 柴田康香
街路樹の足下に見る茸かな
氏名 青柳 幸恵
新米の高く並んで店の棚
氏名 本間 勝
☆初茸や日照雨に濡れる松林
「日照雨」(そばえ)はあるところにだけ降る通り雨のこと。みごとな描写のなされた句です。
新米の穂乃香に和む夕餉かな
氏名 寺崎 美知恵
新米を炊く母の顔ほころびぬ
氏名 屋形 雅代
新米や電話対応頬染めて
氏名 木村 絢子
茸めし家族の笑顔窓開けて
俳号 山本五之三
持て成しの茸の癖が癖になり
俳号 寺澤哲子
父の字で新米届く息災と
氏名 川原 厚子
☆原木に父の面影茸たつ
おそらくは寡黙で、かつたくましい父上だったのでしょう。「たつ」が少し惜しかったように思いましたが。
俳号 伊藤美子
新米の天地の恵み届きけり
氏名 塚本 富士子
茸狩り足に絡まる蔓に負け
氏名 疋田 ちづ子
☆新米を担ぎし父の厚き胸
重い米の袋をおそらくは軽々と担いだ父親。何とも懐かしい感じをおぼえました。
俳号 克丸
茸らの地下の仕事に想い馳せ
氏名 岡村 典子
梅の木に見たこともなき茸かな
氏名 田邊 法子
すれ違ふあとに茸の匂いせり
人の影濃し紅茸の影よりも
☆新米や仏間の燭の揺らぎなし
ご先祖様にも新米をお供えしたのでしょう。蠟燭は変わらずまっすぐな炎を見せてくれています。
俳号 塩田みどり
茸たつぷり下伊那の長の家
氏名 林 佐知代
☆新しいリュックと帽子茸採り
採れるかどうかはわかりませんが、とりあえず、張り切って用意をした様子がわかります。
俳号 杤尾まほ
難除の鈴りんりんと茸山
☆茸籠いつしか電波圏外へ
人里離れたところにこそ、茸はあります。いつの間にか携帯電話の電波が届かないところへ来てしまった心細さがいい味を出しています。
新米や友の新居は四世代
氏名 吉井 さえ子
常よりも深く味はふ今年米
(下五、「新米かな」を直しました。字余りですので。)
俳号 晴
松茸山賑わう声は遠くなり
氏名 西野 悦子
菌床の茸いろいろ町暮らし
氏名 荻野 和子
新米や威風堂々店先に
氏名 宮﨑 理恵
安心の目利きと行こう茸狩り
俳号 長岡純子
新米の大きおにぎり野球の子
俳号 瀬戸の風
茸狩り夕陽に映る森の影
氏名 黒岩 雅弘
新米と聞きて美味しさ更に増す
俳号 縞錆
念入りに茸選る母猫あくび
氏名 山中 優
いただいてそうっと運ぶ茸かな
俳号 橋本千蓼
☆せせらぎの音と味わう茸汁
山深いところで賞味する「茸汁」。野趣とともに上品さも共存している句です。
俳号 山城翔雲
故郷の森の大きな茸かな
氏名 中岡 文子
茸採り女孫は赤が好きという
氏名 伊木 秀明
茸の巣子にも伝えず浄土まで
俳号 白 蝶子
道端にひそと立ち居る毒きのこ
氏名 小林 茂之
長く生きそして一人の今年米
一行に博識まじる茸狩
☆目立つ色目立たぬ色の茸かな
はたして食用か、毒があるのか。「色」に注目した素敵な作品です。
俳号 長澤きよみ
夫の歳こえてしまつて茸飯
☆無住寺へ踏まずに登る毒茸
「毒茸」は踏んだだけで何やら異変が起こりそう。そんな心理がうかがえて面白い作品です。
氏名 山﨑 三十子
雨のあと見たことのない茸生え
氏名 檜山 八穗子
☆新米を袋詰めする一日かな
まことにシンプルな句。出荷するのか知人親戚へ送るのかはわかりませんが、その日の単調さが見えてきます。
新米を掬ひて涙こぼしたり
俳号 まつざきやすこ
普及誌に新米添えてお向かいへ
俳号 米崎 璃津子
☆親しみし故山の行方茸汁
茸といえば故郷を思いますね。「あの山は変わらずにあるのだろうか」という思いが少し切ない句です。
見え隠れの祖母の背追う茸狩り
氏名 小林 真寿美
☆新米や父の口笛力こぶ
思い込みかもしれませんが、昔のお父さんはたくましく、機嫌のよい時は「口笛」だって吹いてくれた。楽しい作品です。
俳号 薩摩乃甘藷
朝露を浴びて煌めく茸かな
熊鈴を響かせ探す茸狩
氏名 小谷 治子
☆新米の光を握る塩むすび
新米とおむすびの句は数かぎりなくありました。この句、中七がまこと美しい。
新米と葉書米屋で手に入れぬ
氏名 小野 幸代
暴風雨やみたるあとの今年米
俳号 ちいこ
茸好き寂しがり屋のひとり好き
氏名 横松 きよみ
図鑑見て不安拭えぬ茸かな
氏名 西 義信
☆茸らが家族の如く並びけり
山の中で、仲睦まじい「家族」のように待っていてくれた茸。じつにユニークな把握の仕方がされています。
俳号 根岸幸子
廃校の花壇真白き茸かな
今宵より三人で食む今年米
俳号 二人静
新米のおにぎり食べる昼休み
俳号 加来響
ししおどし澄み切る空や茸飯
俳号 植田良穂
境内に生ゆる茸のたくましさ
氏名 吉田 鈴子
雨上がる森踏みしめて茸狩
氏名 桑原 堆子
椎茸を干す人有りて道を請う
氏名 足立 ひでみ
ふるさとの水で炊きたる今年米
(下五、「新米や」だったのを直しました。)
俳号 輝輝
スーパーの棚でむね張る今年米
氏名 穴繁 恵美子
新米の香りもゆかし頬ゆるむ
氏名 星谷 絹代
新米の何はともあれ塩むすび
俳号 キウチクニコ
新米ややっと落ち着く店の棚
俳号 春風風人
普及誌でつながる友よ今年米
俳号 ゆきたか
山道の夕日に映える茸かな
俳号 待元明子
新米を炊けば厨に香り満つ
俳号 渡辺 葉月
新米やお握りおこわちらし寿司
俳号 梓 小雨
新米の粒噛みしむる夕餉かな
総評
「茸」については、「昔はよく松茸が採れた」といった慨嘆や毒茸に対する一種の恐怖が詠まれた句が多かったように思います。深山に分け入った時の様子などを描いてみるのもいいでしょう。
「新米」(今年米)については、炊き立てを皆が喜び、おむすびにしたりした句が目立ちました。また、今秋は米不足がいわれたため、そのことに言及した句も多かったのですが、ちょっと特殊な年でしたので、あまり普遍性を持つことができませんでした。
驚いたのは、「新米を刈る」という句が予想以上に多かったことです。新米はすでに収穫した米のことです。田圃で刈るのは「稲」です。そのあたり、しっかり区別してください。