講評 2024年11月
兼題「木枯」「小春」
総評に代えて
〇今回目立っていたのは、「小春日に」「木枯に」というように、上五を「四音の季語+に(もしくは〈で〉」にしたパターンでした。別にこれが悪いというわけではないのですが、この形はともすれば、「小春日だから(あたたかいから)~」「木枯だから(寒いから)~」といった結論になりがちです。皆さま、思い切って「や」で切ってみてください。切ることで、「~だからこうなった」という因果から離れることができます。なお、「や」に直して入選にした句が多数ありますことをご了承ください。
〇兼題の「木枯(凩)」には、「木を枯らす風」という意味がもともと含まれています。したがって、「葉が残っている」「木の葉が散った」などの描写は不要です。
〇もう一つの兼題の「小春」には、「布団干す」を取り合わせた例が多数見られました。「布団干す」も冬の季語です。必ず歳時記で「季語であるか、ないか」をお確かめください。
1 氏名 岡田 慎太郎
小春日やシュークリームの溶け始め
☆法要に集ひし人や小六月
地味めな句ではありますが、故人をしのびつつも、気候の穏やかさを静かに喜ぶ姿が見えてきました。
3 俳号 カモミール
靴箱はがらんどうなり小春風
7 俳号 大樹佐保
木枯に一番星の光映え
8 俳号 田中多加代
小春日や結婚記念ケーキ焼き
11 俳号 小池聖明
茜さす山を眺むる小春かな
12 氏名 山﨑 詩乃
☆水草の花一つある小春かな
この「花」は帰り花の一種かもしれません。冬ならぬあたたかさの中の小さな発見です。
つるまめの莢のはじけて小春空
小春日や無沙汰を詫びる電話して
14 俳号 岡崎真理
小春日のホーム黄色の電車着き
17 俳号 伴 めぐみ
小春日や畑の収穫頼まれて
19 俳号 塩田みどり
頸椎の軋み気になる小春かな
20 氏名 岡田 周子
小春日や歩ける距離に実家のあり
21 氏名 山中 優
木枯や熊鈴が鳴る通学路
穏やかにあいさつ交わす小春かな
23 氏名 本間 勝
木枯や頬ふくらませ園児たち
24 俳号 梓小雨
校門に長女を探す小春かな
25 氏名 多田 茂樹
開かぬ窓開けたきカフェの小春かな
29 俳号 和田正尚
木枯らしや池のほとりに鳥一羽
30 俳号 佳月
木枯や豆乳シチュー待つ夕べ
33 氏名 横松 きよみ
木枯や猫の産毛も逆立ちぬ
34 氏名 稲葉 文子
小春空友の門出の輝けり
35 俳号 水島五月
木枯や吾を追い越す赤色灯
炒りたてのほうじ茶すする小六月
☆木枯や二度確かむるドアの鍵
誰かを、あるいは何かを疑うことは悲しいことですが、昨今の状況を考えますと仕方ありません。季語の寂しさがきいています。
36 俳号 佐登華
小春日や縁側で編むマスコット
37 氏名 川喜田 千加代
軽々とペダル踏み込む小春かな
38 氏名 百留 博子
小春なりごみを拾いて投票へ
39 俳号 伊藤美子
小春日や洗濯物の山となり
40 氏名 藤川 知之
木枯らしは白髪頭に容赦なく
41 氏名 矢橋 徳子
プラゴミを浜辺に拾ふ小春の日
42 俳号 はるうらら
日本海静けき波の小春かな
43 俳号 齋藤弘子
小春なり杜の小鳥も騒めきて
45 俳号 桜井伸
裏木戸を叩き木枯一号来
☆老いて児を乗せたる馬の小春かな
かつては颯爽と走ったはずの馬が、今は観光用に子どもたちを乗せているのでしょう。一見さびしいですが、季語の明るさでこの馬の余生の穏やかさがうかがえます。
木漏れ日を水に流せる小春かな
46 氏名 髙 理恵
小春日や妻と見上げる大欅
47 俳号 寺澤哲子
声たかき花屋の娘小春空
48 氏名 堀江 春代
小春日やシニア集いてゴミ拾い
49 氏名 藤原 克敏
幕張のはるか海見る小春かな
50 氏名 屋形 雅代
大祭へ車も弾む小春空
51 俳号 鈴木美和子
☆小春日や畳干す夫頼もしき
この日に布団を干す句はたくさん見ました。この句では、大掃除の前触れでしょうか、畳をしっかり干す夫がいます。素晴しい。
小春日や遊園地行きバス満車
52 俳号 福田美雨
愛行の笑顔いっぱい小春かな
53 氏名 久都間 繁
木枯らしや終夜星ふる森の音
54 俳号 雨堤おふさ観音
小春日や選挙に二人迷いなく
55 氏名 足立 ひでみ
小春日の小豆選りたり縁側に
57 俳号 薩摩乃甘藷
木枯が家路をせかすバス乗り場
58 俳号 寺崎美知恵
予約日や木枯の中髪を切る
60 俳号 川端日出子
☆姿勢よき曙杉や小春空
曙杉はメタセコイアのこと。冬にしては穏やかな空のもと、背筋を正す木のよろしさが描かれています。
小春日のシートぎつしり外国人
61 俳号 久保田弘子
☆小春日の子の背伸びするポストかな
子に投函を任せたのでしょう。小さな子どもの愛らしさが見えてくるような作品でした。
木枯しや雲の絵本の読み聞かせ
62 俳号 えつこ
小春日の同窓会は佐多岬
63 氏名 駒木 典子
小春日やケージの猫の大あくび
64 氏名 木村 裕子
小春日や藁敷き詰めし植樹跡
66 俳号 山本五之三
☆木枯らしや路面電車の土佐ことば
高知市の路面電車でしょうか、お国訛が聞こえます。ローカル色ゆたかな作品でした。
小春日やシューフィッターの選ぶ靴
67 氏名 西 義信
木枯しや母の背中のなつかしき
68 氏名 田邊 法子
木枯やセールの旗の鳴りづめに
木枯や谷の深さを顕わにす
☆小春日の右手を上げし招き猫
地域によっては、左手をあげている猫もあるとかないとか。楽しい作品でした。
71 氏名 細川 京子
木枯や再開不明電車待つ
72 俳号 植田良穂
小春日や街の景色もゆるくみえ
73 氏名 笠倉 まゆみ
伸びをする吾の影大き小春空
76 氏名 吉田 鈴子
小春日や腰掛けてみる木のベンチ
小春日や光の中を歩む幸
77 氏名 檜山 八穗子
窓拭きて手に小春日の温かさ
☆木枯に声も帽子も取られけり
帽子だけではなく声もというところに、一種のやるせなさが感じられました。
78 氏名 林 佐知代
木枯や二匹の猫の待つ玄関
80 氏名 塚本 富士子
小春日や口あく鯉の赤き舌
凩や幟古びし瘡の神
81 俳号 橋本千蓼
小春日や並ぶ地蔵の笑み深し
82 俳号 輝輝
産土の神社に参る小六月
83 俳号 宮﨑理恵
八ヶ岳木枯らしの中青く立つ
白い幹並ぶ間を小春風
86 氏名 西野 悦子
田の神の守る一反の小春かな
87 氏名 松川 しのぶ
☆小春空ゴルフボールの軌跡かな
ボールの描く弧に着目した作品。すっきり無駄なく仕上がっています。
海渡る木枯らし見たり無人駅
88 俳号 小西博子
小春日や歴史紐解く湊川
89 氏名 小林 真寿美
☆木枯や星座ひたすら輝きぬ
この季語と星座はじつによく合います。「ひたすら」がちょっと切なくていいですね。
90 氏名 長岡 純子
猫五匹思い思いの小春かな
92 氏名 林 美智子
老友と小春日和の会話かな
93 俳号 長澤きよみ
木枯や角の欠けたる道標
☆小六月回転椅子のよく回る
美容室での景かしら。季語のかもしだすのんきさとじつによく合う内容でした。
木枯や海辺の医院ペンキ褪せ
94 俳号 加来響
くうくうと鳩が腹這う小春かな
96 俳号 水仙
小春空走者がエール交わす声
97 俳号 藤井 智栄子
ジャケットを腕に抱えて小春かな
99 俳号 長尾笑元
小春日や樹々の隙間の空青し
100 氏名 伊木 秀明
神の子ら畑に集う小春かな
102 氏名 疋田 ちづ子
木枯らしや犬も服着る散歩道
105 氏名 小田川 浩三
光受け畑輝く小春かな
106 俳号 十勝 晴尋
木枯らしや肩寄せ登るつづら折り
107 俳号 おがわなおこ
木枯や鯖味噌飯に馴染みたる
108 俳号 根岸さち
☆メレンゲの角の尖りや小六月
しっかり泡立てたメレンゲの白さが見えてくるような作品でした。
109 俳号 仙波
小春日を求めて集うスーツかな
110 俳号 沈香花
小春日や話が尽きぬクラス会
112 氏名 北原 恵子
木枯らしやドッジボールで息弾み
地下鉄の階段上り小春かな
113 氏名 南 功治
母植えし花も喜ぶ小春日よ
114 氏名 穴繁 惠美子
小春日の雲ひとつなき空仰ぎ
115 氏名 小谷 治子
☆木枯や海には海の掟あり
山口誓子の句を踏まえているのでしょう。「掟」という硬い言葉が生きています。
116 氏名 星野 茂美
木枯らしに背中押されて競歩かな
117 氏名 星谷 絹代
木枯や玩具のシャべル飛んで来し
119 俳号 瀬戸の風
小春風湖面に揺れる山の影
120 氏名 桑原 堆子
母と子のボール投げ合う小春かな
121 氏名 吉井 さえ子
小春日の児らの挨拶声弾む
122 氏名 澤邊 義典
自転車の籠に木枯し置き土産
125 俳号 青木卯
友の名と同じ小春の暖かさ
126 氏名 瀬川 小百合
猫ねむる小春の庭の穏やかさ
127 俳号 いづみ
園児らの散歩に出会う小春かな
129 俳号 杤尾まほ
鳶の輪の巡り尽くせり小春空
☆小春日や塒忘るる鳩一羽
はぐれてしまった鳩でしょうか、あわれなようなユーモラスなような、不思議な味わいのある句ですね。
130 氏名 北村 貞子
小春日やさざ波光る湖の面
134 氏名 岡村 典子
小春日や庭木に憩うつがい鳩
135 俳号 ちいこ
木枯やさてなにしようこんな日は
136 俳号 縞錆
木枯に立ち向かう犬負ける犬
138 氏名 山﨑 三十子
窓放ち小春日和に手足干す
139 氏名 千葉 明子
小春凪釣糸垂らしぼっと見る
141 俳号 春うらら
☆娘との距離縮まりし小春かな
少し疎遠だった親と子が歩み寄る、これもまた、季語の力だといえるかもしれません。
145 俳号 渡辺 葉月
バイオリンに送らるる刀自小春空
☆木枯や見向きもされぬ駅ピアノ
今日はピアノどころではないのでしょう。ちょっとかわいそうな感じもあり、心に残りました。
車椅子押して母との小春空