講評 2024年12月

兼題「年忘」「初日の出」

総評に代えて

今回の選は少し厳しく感じられるかもしれません。理由は二つ考えられます。
1 「年忘」の意味を誤解したこと。この季語はその年を振り返るための、いわば宴会。大晦日に自分の一年を総括することではありません。今でいう「忘年会」ですね。ご自分で判断せず、まずは歳時記で確認してください。
2 「初日の出」はもともとこの一年の息災を祈る意味が含まれた季語なのに、それをまた句の中で言ってしまった句が多かったこと。思いを述べるのではなく、風景を描写することを心がけてください。
〇五七五は一字あけをせず、間を詰めて投句してください(一行棒書きといいます)。間を一字ずつあけて書くのは標語でよく使われる表記です。見た瞬間にわからなければ標語は役に立ちません。俳句は文芸ですから、何かに役に立つか立たないかを考える必要はないのです。

櫂 未知子

4 俳号 矢羽田兎海
初日の出思ったよりもゆっくりと
死んだ気で生きるを選び初日の出

5 俳号 富海善風
曇りなき心に昇る初日の出

6 俳号 カモミール
肩肘をはらぬ同胞年忘れ
鴇色の山並幾重初日の出

7 氏名 川 智貴
蕎麦湯入れほつこりしたる年忘

8 俳号 難波和代
二年目の気心知れて年忘

9 俳号 鈴木美和子
妹の煮物味わう年忘

13 俳号 薩摩乃甘藷
一人部屋グラス無くなる年忘

15 氏名 本間 勝
山の端にみるみる丸く初日の出

16 氏名 川原 厚子
伸ばす手に拾う縁や初日の出

18 俳号 水島五月
謝りて笑ひ合ひたり年忘
アングルをやうやく決めて初日待つ
☆カーテンを音立てて開け初日の出

ふだんなら咎められるかもしれない行動が堂々とできる時があります。この句はその瞬間をうまく言い止めています。

19 氏名 兵頭 光子
はるばると夜行列車に初日の出

20 氏名 岡田 慎太郎
病牀の窓に初日を待ちにけり
☆初日さす猫しばらくは止まりをり

さすがに「猫」も日の出をありがたく思ったのでしょうか。何とも楽しい作品でした。

21 俳号 小池聖明
年忘家族総出の台所

22 氏名 津森 鈴子
海中に音なくうつす初日の出

25 俳号 冨湖
初日の出脳裏に深く焼き付けて
友らとの語らひ静か初日の出

26 俳号 桜井 伸
☆湾岸の灯り耀ふ年忘れ
何ともお洒落な雰囲気があります。「耀ふ」という雅な言葉がいい。
みづうみの端に宿とる年忘
産土へ参る畦道初日の出

27 氏名 西野 悦子
木の間より切れぎれに見ゆ初日の出

28 氏名 髙 理恵
年忘れ夫と一緒に歌合戦

30 氏名 百留 博子
初日の出白く輝く船しぶき
トラックの荷物は重し年忘

31 俳号 縞
鶏の骨くすねる猫も年忘

32 俳号 長尾笑元
口々に歓声こだま初日の出
仇敵と肩たたきあう忘年会

33 俳号 井上優女
初日の出つねと変はらぬけふなれど

34 氏名 平田 和美
待つ事の心満ちたる初日の出
何事も許されたりし年忘

36 氏名 矢橋 徳子
手作りのメダルきらきら年忘
初日の出槇の葉叢に輝けり

37 俳号 志方早葉
初日の出雲の切れ間に合掌す

38 氏名 山﨑 詩乃
年忘れ男にとって女とは
小さき机小さき部屋に初日さす

39 俳号 山本厚子
入院を吉事にかえて年忘れ
初日の出拝む指先凍えたり

40 俳号 寿
茶碗蒸しつく方選び年忘

41 氏名 木本 和子
奥津城の眼下染め行く初日の出
年忘同窓生の手打ち蕎麦

42 俳号 長岡純子
十六人揃ひて詣で初日の出
ネパールの子目の輝きて初日の出

43 俳号 西田茜丸
空高く家族で祝う初日の出
最高の人に囲まれ年忘れ

44 氏名 千葉 明子
労いの笑み交わし合う年忘れ

46 俳号 川端日出子
桴一つ落とす和太鼓年忘
行儀よく並びし車初日の出

48 俳号 ちい
共白髪ちかいし夫と初日の出

49 氏名 西 義信
孫たちの自慢飛び交う年忘れ

50 氏名 前原 由美子
平穏に夫婦ふたりの年忘
サーファーの波の向こうに初日の出

51 俳号 初日の出
雄大に全てを生かす初日の出

52 俳号 二人静
やり切った自分抱きしめ年忘

53 俳号 山本五之三
大将の昔語りや年忘
☆お勝手に母の声あり初日の出

変わらずこまめに動いている母親。いきいきとした家族詠ですね。

54 俳号 七宝猫
亡き猫に夫と献杯年忘

55 氏名 木村 裕子
米にぎり鎮守巡りや初日の出

57 俳号 齋藤弘子
忘年や月煌々と銀の草

58 俳号 Tetsuko Terasawa
心決め初日の出待つ移民妻

59 氏名 財津 副代
母共にバス泊しての初日の出

60 氏名 桑原 堆子
緩解の夫と乾杯年忘れ

61 氏名 駒木 典子
ほがらかに介護施設の年忘
初日の出生まれ変わりて第一歩

62 俳号 前田 椛
中東に希望の光初日の出

63 氏名 堀江 春代
年忘ギガの争奪孫つよし

65 俳号 水仙
初日の出缶コーヒーを祝杯に

66 氏名 藤原 克敏
湯楽(ゆら)の里海をのぞみて年忘れ

67 俳号 久保田弘子
初日の出吾子の寝顔のその上に
☆ふるさとの水美しく初日の出

「水」に目を向けたのがじつにユニーク。故郷は全て輝いてみえるのでしょう。

68 俳号 伴 めぐみ
神想観終えし爽快初日の出

69 俳号 植田良穂
琴の音に盃交わす初日の出

70 氏名 田邊 法子
憧れし人と同席年忘
☆年忘果て街路樹のざわめきぬ

店を出て、木々のざわめきに気付いた作者。歳末の雰囲気をよく描き得ています。

74 氏名 長松 素子
☆湯の町の湯けむり髙し初日の出
「湯けむり」に紛れてしまいそうなお日様。ローカル色がよく出ている作品です。

75 俳号 橋本千蓼
今年又鰰無しや年忘れ
初日の出拝む老婦や神々し

76 氏名 足立 ひでみ
うかららと水炊き囲む年忘

81 俳号 smile
年忘れ積もる話もありがたき
初日の出見るもの全ていのち得て

82 氏名 横松 きよみ
土手の上爪先立ちて初日の出

84 俳号 すみえ
神棚のお札入れ替え年忘

88 俳号 はるうらら
年忘姉の温もり留めたし
初日の出湯けむり越しの目出度さよ

89 氏名 屋形 雅代
結球をわすれた野菜年忘
初日の出猫が渡れり青信号

90 俳号 和田正尚
砂利の音三輪の社の初日の出

91 氏名 吉田 鈴子
見慣れたる道ほろ酔ひの年忘
☆上昇の飛行機きらり初日の出

皆が太陽を待っている空をよぎった「飛行機」。「きらり」がかなりお洒落な表現です。

93 俳号 田中多加代
きざはしの奥の居酒屋年忘
夫と来て弥山の峰の初日の出

95 俳号 長澤きよみ
水管橋いよよ透けゆく初日の出
☆年忘ワインセラーの隠し部屋

「ワインセラー」そのものが少し秘密めいていますが、さらには「隠し部屋」があるという……かなりお洒落な忘年会だったのですね。

96 俳号 進藤桂兎
皆眠る配達の朝初日の出

97 氏名 穴繁 惠美子
賑やかに同窓の友年忘れ

98 氏名 山中 優
☆円居して皆で褒め合う年忘れ
「皆で褒め合う」がそこはかとなくユーモラスでいいですね。ぜひ、こうありたいものです。

99 俳号 青木卯
カレンダー忘年会の文字踊り

100 俳号 十勝 晴尋
東雲に鳥居くぐれば初旭

101 氏名 小西 博子
年忘月に護られ家路着き

102 俳号 右陣平
年忘れ残念会を兼ねる夜
気がつけばビルの隙間の初日の出

103 俳号 詩架
金色の初日の出ただ合掌す

105 氏名 疋田 ちづ子
電飾のトンネル抜けて年忘れ

108 氏名 澤邊 義典
吐く息の両手の先の初日かな

110 俳号 根岸さち
腕相撲の決戦最中としわすれ

113 俳号 細野みすず
滑稽な姿で帰る年忘

115 氏名 山﨑 三十子
そのままを生きんと誓う初日の出

118 氏名 小林 茂之
あの光る川が阿武隈大初日
☆一枚の空に初日のありにけり

「一枚の空」と言い切ったところがすごい。ゆったりとした描写が素敵です。

119 氏名 笠倉 まゆみ
☆忘年会私服姿の上司かな
ふだんは制服や作業着をまとう必要のある職場なのでしょうか。「私服姿」がかなり新鮮に思われたのでしょう。
知らぬ間に手足あたたか初日の出

122 俳号 にこ
年忘新メンバーも笑み溢る

124 俳号 輝輝
微笑みの蛇が残すや初日影

125 氏名 南 功治
この国は豊かと感ず年忘れ

128 俳号 照伝 呼和易道
神楽舞う父の面影初日の出

129 氏名 川喜田 千加代
風も無く波に映りし初日の出

130 俳号 瀬戸の風
初日の出光の道を歩み出す

131 氏名 林 佐知代
☆還暦や若草山の初日の出
いきなり「還暦や」で始まる上五が面白い。地名もきいています。

132 俳号 千羽
初日の出皆で見つめた山の先

133 氏名 檜山 八穗子
森厳の気が満ちみつる初日の出
海からも山からもあり初日の出

135 氏名 小谷 治子
盛り上がる真砂女の恋や年忘

136 俳号 西山レモン
年忘れ流れる曲が分からない
初日の出孫の横顔輝いて

138 俳号 杤尾まほ
☆年忘唐子の遊ぶ皿小鉢
食器に注目した楽しい句です。布袋和尚のそばで戯れる子どもたちの姿が思われ、愛らしい。
少年の海を向きたり初日の出
チームメイト揃ひの帽子初日受く

141 氏名 岡村 典子
家並みの道真っ直ぐに初日の出

142 俳号 山田三貴子
天空のビルの隙間や初日の出

143 氏名 林 美智子
寺社参り車の中に初日さす

144 俳号 ちい
年忘心に刻む宵の月

152 氏名 小林 真寿美
年忘喜々とせる夫見送りし

153 氏名 細川 京子
☆眉山にて人さんざめく初日かな
徳島市にある聖なる山のことでしょうか。初日の出を祝う人々の熱気が伝わってきます。

157 氏名 中野 尋恵
新生に心ときめく初日の出

158 俳号 柴田康香
初日の出夫と共に喜びて

159 俳号 渡辺 葉月
初日の出子供の住まふ方位より
☆千年後思うてをりぬ初日の出

なかなかスケールの大きな句です。ただ、旧かなが間違えていましたので、直しておきました。