講評 2025年2月

兼題「白梅」「紅梅」

総評に代えて

 兼題ゆえでしょうか、今回はそこそこの句が多かったようです。もちろん、素敵な作品もたくさんあります。
 白梅、そして紅梅。どちらも四音です。したがって、上五に置いて「や」を付けるか、中七に入れるかが一般的なつくりかたになります。下五に置いて「や」を付けるとかなり格好悪いのでご注意ください。たとえば、
  白梅やゆつくり機関車の停まり
はいいけれど、
  ゆつくりと機関車停まり白梅や
は相当カッコ悪いのです。
 今回の兼題には、どちらも色の名前が入っています。したがって、「青空」を配すると色どうしがぶつかることになってしまいます。そのあたりを少し直して入れてある句もあります。
 単に「梅の花」といえば白梅を指します。
 桜と異なり、梅は満開をよろこぶものではありません。三分咲きがもっとも風情あるものとされています。
 絵に描いたり、きもの等の模様になっている花は季語とはいえません。

櫂 未知子

1 氏名 千葉 明子
大空に紅梅重ね美しき

3 俳号 佳月
花びらを重ねて深き紅梅よ

5 俳号 大樹佐保
白梅やお不動様もほころびて

6 氏名 青木 まり子
紅梅や病越え大空に立ち

7 俳号 沈香花
紅梅や子らの歓声響きたる

9 氏名 木村 裕子
白梅や眼下はるかににぎりめし

10 氏名 木本 和子
紅梅や光の中に包まれて

11 氏名 岡田 慎太郎
街道の隅の白梅ひらきけり
☆白梅やありかなきかの丘の風

この季語で「丘」の例はとても珍しいです。庭や公園と異なり、広がりが出ました。
街道にひとつ白梅咲き初めぬ

12 氏名 山﨑 詩乃
しらうめやその枝ぶりの逞しき

13 氏名 屋形 雅代
白梅やそっと手向ける野辺送り
梅月夜切なく猫の哭く声よ

15 氏名 前原 由美子
大空やしだれ紅梅風に揺れ

16 俳号 矢羽田兎海
薄紅梅童子の頬の温みかな

17 俳号 カモミール
紅梅やリボン飾りの観世音

19 俳号 和田正尚
紅梅に取り囲まれし浮見堂
☆白梅や父にせがみし肩車

ちょっと懐かしい句です。「白梅」は父親や男性のイメージが強いため、この作品はぴったり過ぎるほどでしょうか。

22 俳号 川端日出子
☆佐保川の陽射しあつめて梅の花
由緒ある川の名を用いたことで、この句はちょっと華やかになりました。心あたたまる作品です。
別々の事して二人梅日和

23 俳号 はるうらら
白梅の香に迷ひたる小鳥かな

24 俳号 鈴木美和子
紅梅や枝先までも力満つ

26 氏名 本間 勝
枝いっぱいいまだふふめり白梅は

30 俳号 志方早葉
盆栽の白梅香り父想ふ

31 氏名 川原 厚子
手を合わす紅梅光る展望所

33 俳号 髙橋瑞穂
紅白の梅寄り添いて睦まじき

34 俳号 みーたま
鳥つどう白梅の香に誘われて

35 俳号 西山レモン
白梅や潮風受けし綾部山
紅梅や合格便り届きたる

39 俳号 晏子
白梅や輝き放つ空ひろし

40 俳号 山本五之三
中退を決めたる娘梅ふふむ

48 俳号 田中多加代
見まほしく白梅の香に立ち止まる

49 氏名 齋藤 弘子
白梅や重ね重ねに昇り行き

50 氏名 藤川 知之
白梅や窓辺の紅茶寄り添うて

51 俳号 久保田弘子
白梅の先客は猪らしい

53 俳号 寺崎美知恵
白梅や思い出もちて旅だちぬ

54 俳号 緒方夏海
白梅に鳥集まりて会議かな

59 俳号 えつこ
白梅はまだ二分咲きの太宰府へ

61 俳号 桜井 伸
白梅や君ありし日と同じ空
☆楊貴妃てふ紅梅の空ふかくあり

植物の固有名の勝利です。何ともいえず豊満な梅の色が見えてくるようでもあります。

67 氏名 西野 悦子
白梅の笑っているよ藪の中

68 俳号 雨堤おふさ観音
白梅やよわい重ねて枝ふとし

69 氏名 林 佐知代
紅梅の蕾それぞれ雫持つ

71 氏名 伊藤 美子
やわらかな紅梅続く雲なりき

72 俳号 寺澤哲子
☆白梅や父の温もり筆跡に
白梅は男性もしくは男親のイメージが強いとされています。派手さはありませんが、在りし日のお父上の温顔が見えてきそう。
白梅や母に宛てたる父の文

76 俳号 岡田周子
紅梅の蕾ほつほつ夕まぐれ

78 俳号 花葉
紅梅をほめて朝から立ち話

80 俳号 梓小雨
幼子を抱き白梅を愛おしむ

82 俳号 城下町ようこ
紅梅や思いのほかに良きご縁

83 氏名 矢橋 徳子
浦安の白梅残る蜑の家

85 俳号 城下早苗
白梅の声なき声は歓喜なり

86 氏名 吉田 鈴子
坂道を靴音響く梅月夜
☆紅梅の開かむとする日和かな

白梅でもよさそうですが、ここはやはり紅梅でありたい。うら若き女性の華やかさを想起させてくれるからです。

87 俳号 宏子
廃屋の白梅ひそと咲きにけり

88 氏名 木村 絢子
紅梅の空晴れわたり新天地

89 俳号 十勝 晴尋
白梅や天満宮の鈴を振り

90 俳号 黒岩雅弘
高貴なる紅梅吾の背中押す

91 俳号 佐登華
白梅やお守り持ちて太鼓橋

92 俳号 輝輝
白梅の路を一緒に満月と

94 俳号 水島五月
☆白梅や背広二人も足を止め
紅梅ではこうならないのです。作者の繊細さ、そしてつい立ち止まったスーツ姿のお二人も賛美したいと思います。
一息に坂を登れば梅の花
☆紅梅やまへゆく人の耳飾り

紅梅は少し華やか。「耳飾り」をしていた人も(おそらく)女性だったのでしょう。季語のありようをよく踏まえた作品です。

96 氏名 原田 冨湖
紅梅や丸きフォルムの鳥遊ぶ

97 俳号 長岡純子
☆紅梅や子の結婚の揺るぎなき
今のご時世、本当に動かぬものがあるのかどうか不確かですが、この心境は理解できます。
はらからみな誠実に生き梅白し
慎ましくもの言ふ人や梅白き

98 氏名 宮沢 ゆかり
白梅や校庭の角(すみ)守り居り

101 氏名 伊木 秀明
紅梅や妻の心に抱かれて

102 氏名 笠倉 まゆみ
老木のいのちのひかり梅の花
しだれ梅風の向こうに富嶽かな

104 俳号 長澤きよみ
☆梅が香やここも空き地に末広湯
また一つ銭湯が消えたようです。しかし、そこにある梅の木は、つねと変わらぬ香りを放ってくれたのでしょう。
白梅やびいどろ茶屋に脚休め

108 俳号 松川 しのぶ
紅梅のくれない空に溶けにけり

110 俳号 春うらら
荒畑の隅に傾く紅白梅

111 氏名 駒木 典子
無礙光となりて白梅なほ白し

112 俳号 縞
白梅や土の匂いの懐かしき

113 氏名 疋田 ちづ子
白梅や父の寡黙のわかるいま

116 俳号 小西博子
紅梅の蕾に見える息吹きかな

118 氏名 髙 理恵
白梅や自転車降りて手を伸ばす

119 氏名 塚本 富士子
堂塔の見ゆる小路や梅真白
☆梅白し六人のみの小学校

桜と人数の少ない学校を取り合わせた句はたくさん見ましたが、梅では珍しい。長閑でいい句です。

120 氏名 山﨑 三十子
訃の報せ空を仰げば梅白し

122 氏名 辻井 裕子
廃屋に紅梅咲きて華やぎぬ

123 氏名 澤邊 義典
長浜の歴史をつなぐ盆梅よ

124 俳号 三貴子
白梅へ土手かけ上がるスニーカー

125 氏名 檜山 八穗子
☆夕闇に白梅の香の溶けゆきぬ
とても上品な句です。うっすらと梅の白さも見えてきそう。
白梅に月かたりをり夜もすがら

126 俳号 宮崎理恵
見上げてはすっきりな空しだれ梅

127 氏名 星谷 絹代
白梅の寺院に二台消防車

128 氏名 堀江 春代
白梅や空洞の中苔むして

130 氏名 小林 茂之
紅梅や裁縫箱に母の文字
☆紅梅を愛でつつ妻を少し恋ふ

紅梅はどちらかといえば若い女性のイメージです。しかし、作者は梅の赤さの中にかつての妻を思い浮かべたのでしょう。じつにいい作品です。

131 俳号 根岸さち
☆白梅の蕊ゆつたりと開きをり
多くをいわないよろしさがあります。写生の妙ですね。
とびきりの今朝の光よ白梅よ

133 氏名 北村 貞子
白梅の気品ただよふ社かな

135 俳号 NICO
白梅や横の手水舎浄まりて

136 氏名 前田 悦子
白梅や形見鋏で髪を切り

137 氏名 津森 鈴子
ながむれば白梅ともに年重ね

141 氏名 矢野 るみ
必ずや約束守るしだれ梅

144 氏名 小野 千早子
紅梅の空にとけこむ心地して

147 氏名 細川 京子
☆白梅やそぞろ歩きし青年部
どこの「青年部」でしょう。女子の集まりよりは青年部と梅の白さはよく合います。
白梅やうだつの町の商家跡

151 俳号 水間水仙
白梅や学問の神集まりて
☆紅梅や刺繍の糸を買い足して

若いお嬢さんのイメージの強い紅梅。「刺繍の糸」も愛らしく思えてきます。

152 俳号 伊藤京子
三回忌白梅ふふむ檀那寺

153 俳号 福徳
目を閉じて白梅の香に手を合わす

157 氏名 田邊 法子
☆紅梅の風に預けし旅の髪
中七の「風に預けし」がとてもうまい。女性たちだけのささやかな旅だったのでしょうか。

158 氏名 桑原 堆子
紅梅や靴を貰って身も軽く

159 氏名 山本 厚子
紅梅や板に書きたる絵馬新た
白梅や竹刀打つおと響きたり

165 俳号 秋乃雫
青天やポップコーンのような梅

167 氏名 岡村 典子
白梅の芳しき路地ふり返る
白梅や誰そ彼の垣ほの明かり

168 氏名 中野 尋恵
白梅や亡き父思うこの空気

169 俳号 杤尾まほ
大空へ誇らしき枝梅真白
梅白し鎌倉へ入る護身札

172 俳号 ゆきたか
白梅の蕾と共に合格証

173 俳号 詩架
紅梅や病床の母笑みこぼし

177 氏名 金坂 千位子
一輪の白梅くれただけなのに

179 俳号 高橋晴美
夫とまた紅梅愛でる嬉しさよ

180 氏名 畑畠 美千代
空めがけ紅梅の枝伸ばしけり

181 俳号 柳光みかづき
白梅の固きつぼみや朝詣り

183 俳号 ミサコ
白梅や自己主張さえ許される

185 氏名 小林 真寿美
白梅や幸運つかむ朝搾り

188 氏名 中田 智子
白梅のつぼみ固くて土起こす

189 俳号 古蔵花音
白梅の水面にゆらと浮かびけり

190 俳号 福嶋美智子
紅梅の香りほのかに光充つ

192 俳号 渡辺 葉月
☆紅梅や料紙を選び筆を買ひ
この句、「白梅」ならどんなイメージになるでしょう(読者それぞれのイメージに任せましょうか)。ものがとても具体的であり、作者の立場や位置がよく見えてくる作品です。
白梅や姉の葬りの日となりぬ
境内に響く篠笛梅白し

194 俳号 山城翔雲
紅梅のあでやかなるを愛しけり

195 氏名 小谷 治子
半襟の生成りしっくり梅白し
白梅の咲きて目出度きことになり