講評 2025年12月

兼題「短日」「竜の玉」

総評に代えて

〇「竜の玉」。初めて知ったというかたが多いようでした。しかし、じつはこの季語、どこでも見られるのです。神社仏閣の境内、公園内の植え込み等、ありとあらゆるところにあります。ただ、葉はすぐに見られますが、玉は葉の根元までかき分けないと出合えません。ですから、「ふつうに歩いていて竜の玉を見た」「咲き誇っているかのようだった」という句は全て嘘ということになります。
〇「短日」を下五に置きたい時は、「……短日や」という止め方はやめましょう。こういう時は「日短」にすればいいのです。これを下五に置いた場合、「ひ・みじか」というように、一拍ぶん休んでいるような扱いを受けることが可能です。見かけは四音ですが響きとして五音になるわけです。
  △一輪の花買い求む短日や
  一輪の花買い求む日短
〇「短日」の句に「急ぐ」「急かす」等の言葉を入れるのはやめましょう。季語にその意味が入っているからです。
〇「短日」に「日」「太陽」「日没」「一日」等を入れるのはやめましょう。季語にもともと入っているからです。空や天文関係の言葉を入れることもできれば避けたいですね。

櫂 未知子

1 俳号 和田正尚
短日の灯のさざめきや法善寺

4 氏名 石原 佐和子
短日の木々の梢もかくれたり

5 俳号 草野野原
短日や犬あどけなく留守番す

6 俳号 松本敬香
あれこれと思うことのみ日短か
竜の玉見つけし吾子の弾む声

7 氏名 吉井 さえ子
竜の玉物腰低く光りけり
短日や卒寿の母と店巡り

9 俳号 渡辺 葉月
風水の講座にぎはふ日短か
いとけなき掌に載す竜の玉

10 氏名 星野 茂美
短日や雀のねぐら群れをなす

11 氏名 寺島 裕之
短日や恩師の手紙かすれ文字

12 俳号 杤尾まほ
短日の魔物のやうなあくび猫
☆手付かずの原稿用紙日短か

気持ちだけは焦り、用紙は真っ白のまま。共感する人の多そうな作品です。「急ぐ」「焦る」などと一切いっていないところがいい。
山道は足柄日和竜の玉

13 俳号 文月詩架
短日や外に出でて子を待つとせむ

14 俳号 紅花
ままごとのわらべの声や竜の玉

18 氏名 各務 洋行
知らぬ間に街灯ともる日短

20 氏名 小谷 治子
ゆきひらの粥ひとり分龍の玉
☆身の丈の袂重ねむ龍の玉

とても古風な内容です。しかし、そのぶん、この季語のひそやかさに似つかわしい感じがしました。

21 氏名 岡村 典子
かき分けて瑠璃のひかりや龍の玉

22 俳号 三宅由美子
笑いあうははありてこそ竜の玉

24 俳号 小平笑夢
短日やテールランプの続く道
短日や職員室の窓明かり

28 氏名 中濱 広子
短日や犬の首輪にライト付け

29 氏名 星谷 絹代
短日や不用のものに驚いて

30 氏名 原 恵美
短日や寄り添い歩む老夫婦

32 俳号 古蔵 花音
幼兒の宝探しや竜の玉

33 俳号 高島實子
短日の一日愛おし卒寿にて

35 氏名 松本 啓子
短日の息を吹きかけ歩むなり

38 氏名 村松 みゆき
手のひらの窪みに嵌まる竜の玉

39 俳号 秋乃雫
ランドセル走る短日商店街

40 俳号 長澤きよみ
短日や買い物メモを握りしめ
☆竜の玉髪搔き分ける手つきして

たしかにこの季語は懸命に掘るようにしなければ出合えません。その動作を少しつやっぽく描いたのがこの句の面白さです。

41 俳号 三貴子
短日や猫の目光る路地の裏

42 氏名 長松 素子
運命の君との出会ひ竜の玉

45 俳号 木本天祐
竜の玉いつかどこかで見たような

47 俳号 瀬戸の風
短日や父の背広の肩落ちて
☆財布より小銭を探す日短

少し前なら当たり前すぎて頂かなかったかもしれません。キャッシュレス時代だからこそ目に付いた作品です。焦りがちょっと見えます。

51 氏名 小谷松 直子
短日の母は窓辺で塗り絵中

55 氏名 山本 厚子
短日や馬頭観音在すなり

57 俳号 にっこり月子
短日やパンダマークの引越し便
失ひし指輪の如し竜の玉

59 俳号 平野 和翠
短日や家族の笑顔集めたり

60 氏名 古賀 佐智子
短日や踏み切り渡るエコバッグ

61 氏名 小野 幸代
短日に夕餉の匂いただよへる

64 氏名 畑畠 美千代
未知のこと教えられたり竜の玉

66 氏名 伊藤 美子
短日のホームラン球隠れけり

70 氏名 青木 豊江
☆山は日を抱くことはやし暮早し
「日」の重なりを避けて傍題の「暮早し」にしたところが行き届いています。「はやし」「早し」の書き分けも凝っています。
家計簿にレシートたまり日短

71 俳号 西山レモン
検診日晴れて雲なし竜の玉

72 氏名 吉田 鈴子
流れゆく車窓の景や暮早し
産土のゆるき石段竜の玉

73 俳号 大久保恭子
子らの声空にころがり竜の玉
踏み石を照らす朝日や竜の玉

74 氏名 松川 しのぶ
短日や鍵っ子母を待ちわびて

76 俳号 福徳
飛びつきし留守番の犬日短

80 俳号 中田のばら
短日の夕陽を惜しむ畑しごと

81 俳号 伊崎宏子
株元にひそと光るや竜の玉

82 俳号 白房
しわしわと山稜の波暮早し

83 氏名 小林 茂之
精米をゆったり待つや竜の玉
暮早し献血けふで五十回
☆現役の足踏みミシン暮早し

かたかたと母が踏んでいたミシンを思い出しました。そのミシンが今でも使われていることがとても素敵です。季語のせわしなさとは正反対の句の雰囲気に惹かれました。

84 俳号 美紗
短日や鰯しようが煮炊き上がり

85 氏名 桑原 堆子
老夫婦支え歩きて日の短か

86 俳号 夢海
短日や集い終わりて星ひとつ

87 俳号 田中恵子
短日や肝心なこと聴けぬまま

88 氏名 細川 京子
誠実を貫きたくて竜の玉

89 俳号 稲川 優子
短日や紅雲にとどまりぬ

91 俳号 米崎 璃津子
短日の単音で発つ葬送車
竜の玉父よりわが名賜りし

96 俳号 古田啓
短日や母と歌いし帰り道

97 氏名 小林 真寿美
ままごとの皿の上には竜の玉

98 俳号 橋本千蓼
短日や烏も速度あげており

99 氏名 疋田 ちづ子
収穫の野菜を積むや日短か

100 氏名 駒木 典子
ロバのパン遠くに響く日短

101 俳号 十勝 晴尋
短日や暮れゆく玻璃に咳けり
短日や単身の日々覚束無

103 氏名 穴繁 惠美子
日短か夕餉の匂ただよいぬ

106 俳号 伊藤京子
☆短日や荷台に載せし農道具
土にまみれたまま載せて帰る日暮れ。ものを描いたよろしさがあります。

108 氏名 谷脇 照美
日蓮の誕生寺なり日短

109 氏名 笠倉 まゆみ
短日や置いてけぼりのかくれんぼ
☆雑踏へすがた消えたる暮早し

ちゃんと見送った安心感か、さびしさか。ドラマの一シーンのようです。

111 俳号 副彩
短日やまだまだ慣れぬ新天地

113 氏名 植森 恵美子
短日や子を呼ぶ母の声高し

114 氏名 菅野 純紘
晩年も流儀を変えず竜の玉

115 氏名 田邊 法子
☆防災の袋に薬暮れはやし
常備薬を入れて、これで一安心。季語にせかされたわけではないのでしょうが、とにかく、小さな安堵が感じられ、いい句だと感じました。
パイ焼くる匂ひこもりて日の短か

119 氏名 藤田 清美
短日の手早く作る夕餉かな

120 氏名 檜山 八穗子
宝石はいらぬと思ふ龍の玉

123 俳号 加賀 靖彦
短日や影伸び来たる猫のひげ

124 俳号 雅月
暮れ早し媼せかせか仏花買う

125 俳号 長岡純子
短日や脱ぎっぱなしの児らの靴

126 俳号 N I C O
短日や横断歩道長い影

127 俳号 塩田みどり
医科大へメトロ乗り継ぐ日短

128 俳号 浦崎まゆみ
短日や歩幅ひろげて逃ぐる影

129 俳号 おおもと文薫
短日や山々の影夕映える

131 俳号 川端日出子
☆朝夕刊ポストのままに日短
気ぜわしくて、つい取るのを怠ってしまったのでしょうか。そういえば、夕刊はずいぶん早い時刻に来ますね。

132 俳号 水間水仙
短日やほつれた服を手に取りて

134 俳号 ゆうだち
☆暮易し思わず呻る一番湯
この季語にして、この暢気な内容はじつに珍しい。意表を突かれた作品です。
キリストの眼差しめいて竜の玉

135 俳号 梓小雨
短日や影に追われて足急ぐ

136 俳号 Tetsuko Terasawa (寺澤哲子)
短日や猫はいつもの縄張りへ
短日や階段登る靴の音

137 俳号 佐登華
短日やスピードあげて土手すべり

138 氏名 西 義信
日短か犬の遠吠えいと寂し

139 俳号 津島まあや
子ら走る短日なんのそのの如く

140 氏名 横松 きよみ
仏壇の奥にまします竜の玉

141 氏名 林 佐知代
短日や帰宅にしっぽ立てる猫
猫は皆隠し持ってる竜の玉

143 氏名 千田 洋子
☆短日や夕餉のあとの所在なき
せかされるように早々と終えてしまった夕食。しかし、その後には何をしたらいいか決めかねる長い時間が待っています。下五のやるせなさがいい。

145 俳号 山﨑詩乃
短日や帰り道みな影法師
ゆく人とのこされる人竜の玉

147 氏名 御手洗 陽子
短日や子らの見送る蒸気機関車

148 氏名 千葉 明子
短日や帰る靴音重なりて

152 俳号 齋藤弘子
影長く電信柱暮れ早し
短日や古き上着のボタン付け

153 俳号 冨湖
またたきのふたたびみたび日の短か
☆短日や温めなおす常備菜

こういう大きな季語の場合、思いを述べるのではなく、何か具体的で身近なものを配すると句として面白くなります。その王道をゆく句といえましょう。
かな文字の墨の掠れや日の短か

154 氏名 清水 純子
短日や雲上珈琲味深く

155 氏名 矢橋 徳子
短日の東京湾に富士紅く

156 氏名 髙 理恵
短日につま先立ちて窓を拭く

160 俳号 椎木 雅子
給料は煙の如く竜の玉

163 俳号 志方早葉
短日や遊びし児らの声消えて

164 俳号 佳月
山々に続く枕木日短

166 氏名 鈴木 康正
短日やいつもの道が異国風

167 氏名 木村 裕子
短日や貨物列車の橋渡る

169 俳号 春うらら
短日や言葉少なに働けり

172 氏名 平田 和美
なおざりの庭や密かに竜の玉

177 俳号 井上優女
竜の玉なぜに小さき我が願い

178 俳号 七宝猫
短日やランプの灯る喫茶店

179 氏名 河崎 柳子
椅子を引く音が気になる日短

180 氏名 澤邊 義典
短日やゆれる背中のランドセル
短日や声の飛びかう商店街

181 氏名 久保田 弘子
往く道を譲り合いけり日短

183 俳号 水島五月
短日や宿無し猫の餌を待ち
短日や硝子細工の影の濃し
天敵のふと優しきや竜の玉

184 氏名 小柳 美千代
短日やブランコ揺れて子らはなし

185 俳号 山本五之三
短日や看板仕舞ふ細き腕
☆短日や二階に止まるエレベーター

「二階」が絶妙です。焦る気持ちを逆なで(?)するような階数だからです。

187 俳号 鈴木美和子
☆二種類のジャム瓶に詰め暮早し
二種の手作りジャムを清潔な瓶に詰める。手間がかかりますが幸福な一瞬です。日の短さを無闇に嘆いていないところがいいですね。
ひゅひゅひゅひゅと烏の羽音暮早し

191 俳号 矢羽田兎海
短日や印の押されぬ作業表

194 俳号 薩摩乃甘藷
兄妹の宝探しや竜の玉

199 俳号 大樹佐保
短日や昨日の犬にまた会えて

200 氏名 堀江 春代
気ぜわしく買い物済ます暮れ早し

201 氏名 岡田 慎太郎
☆短日や回覧板のかかるドア
回覧板はよほどの地方でないとなかなか見られなくなりました。この回覧板、必ず同じお宅で滞ってしまいます。季語がよくきいている句ですね。
菩提寺の古塔婆入れや竜の玉

202 氏名 南 功治
短日や葛城の尾根赤みさす
日短し心が急ぐ外仕事