講評 2026年2月

兼題「猫の恋」「猫柳」

総評に代えて

〇花でも何でも、近頃の投稿句には「凛と」が多すぎるようです。もっとご自分らしい言葉を探してみてください。この「凛と」、じつはテレビ番組を見ていると一日に一回は必ず耳にします。かなり便利な言葉になってしまっているようですね。
〇「猫柳」と「猫の恋」。たまたま(一見)よく似ている季語を題に出してみました。しかし、描き出すものは対照的といってもよいくらい異なります。その違いを今回の投稿はうまくとらえているでしょうか。
〇「猫の恋」は、まず歳時記の例句を読んでみることから作句が始まります。そうすれば、「赤子のような鳴き声」「雌をめぐっての争い」の句はあまり載ってはおらず、むしろ、そこから少し外した描写に重きが置かれていることがわかるはずです。
〇今回の兼題での投稿句についてよく出てくる言葉や表現を記しておきます。
 猫の恋……闇、夜、路地、屋根、塀、声など
 猫柳………光、川、水、手ざわり、せせらぎなど
おおざっぱに分けてみますと、猫の恋は夜、猫柳は朝や昼間の様子が描かれることが多いようですね。だから、似た句がたくさんあるわけです。作り方としては難しいですが、そういった「よくある景」「よくある表現」から少し外した取り合わせを試してみるのもいいかもしれません。

櫂 未知子

1 俳号 和田正尚
☆大空の雲はゆったり猫柳
上五、蛇足気味ですが、中七が大らかでよろしいかと。

3 俳号 津島まあや
銀色の妙にかわいい猫柳

5 氏名 原 恵美
☆猫の恋闇に響いて声ふたつ
「闇」はこの季語でさんざん詠まれてきましたが、下五が余韻があっていい。

9 氏名 星野 茂美
陽当たれる窓に輝く猫柳

10 俳号 田中和敬
せせらぎに耳をすませば猫柳
光さす水のささやき猫柳

11 俳号 松本敬香
☆猫の恋物置小屋の向こうから
「物置小屋」という、まったく色気のないものを持ってきたところがいいですね。これも俳句の一つのやり方です。

13 俳号 渡辺 葉月
玻璃に映れる恋猫に身のすくむ
☆深更の月に戻りぬ猫の恋
使われている言葉(措辞)が上品で素敵だと感じました。

18 俳号 髙田政子
☆うっすらと顔を見せてる猫柳
あのぽやぽやとした感じが楽しく描かれています。

19 氏名 伊藤 美子
風の道指に触れたき猫柳

20 俳号 千羽
猫柳触れて世界は指ひとつ

21 俳号 瀬戸の風
☆薄明に影ふたつ寄る猫の恋
人間の恋人同士のよう。騒々しさがなくていいですね。
紙きれの白さとどまり猫の恋

23 氏名 小野 幸代
猫柳子供の声が聞こえけり

24 俳号 城下早苗
さもあらん今は叶わぬ猫の恋

28 氏名 村松 みゆき
☆大川を見守るような猫柳
猫柳といえば川ですが、大きな隅田川を「見守る」というところに意外性があっていい。

29 氏名 山本 厚子
☆餌皿に餌残したる猫の恋
食べている暇などないのでしょう。ユーモラス、かつちょっと切ない句。

30 氏名 岡村 典子
空き家へと通ふ路地裏猫の恋

31 氏名 小谷 治子
きんつばの皮のうすきや猫柳
☆猫柳禰宜の顔もつ教師かな
休日には禰宜としての側面を見せてくれる先生。季語とつかずはなれずの感じがいいですね。

33 俳号 根岸さち
猫柳瀬音に向かひ伸びゆけり

34 俳号 文月詩架
軒先も縁の下にも猫の恋
追いかけて実らぬ恋やうかれ猫

40 俳号 水間水仙
☆新聞の配達の音猫の恋
新聞よりも「朝刊」がよりよいかもしれません。明け方まで必死な猫の様子が見えてくるような句ですね。
階段を行ったり来たり猫の恋

42 氏名 古賀 佐智子
☆猫柳いけし時より風そよぐ
植物をいけた句の場合、たいていは器をいうのですが、この句は風に敏感な猫柳の産毛を意外な視点で描いています。
恋猫や首をふりふり暗闇へ

43 氏名 松本 啓子
猫の恋甘い言葉はいらぬかな

44 氏名 山﨑 佳子
振り向いた祖母の肩越し猫柳

45 俳号 古蔵 花音
猫の恋受験勉強はかどらず

46 俳号 鈴風 雅
受け入れる一人暮らしや猫柳

47 俳号 西村せつ子
鼻先を確かめあって恋の猫

48 氏名 星谷 絹代
日の出前いつも会う人猫柳

49 氏名 北村 貞子
☆かたくなな心にひかり猫柳
その人の来し方の厳しさが見えてくるよう。見かけよりも切ない作品です。

51 俳号 西野悦入
境内を恋猫斜めまっしぐら

52 氏名 疋田 ちづ子
温もりをぎゅっと閉じ込め猫柳
久々に始まる気配猫の恋

53 氏名 財津 光明
猫の恋叶わぬ術のふえており

54 氏名 中濱 広子
ついエール送りたくなる猫の恋

55 俳号 ナカナカ
尻尾立て路地裏を行く猫の恋

57 氏名 小林 茂之
不機嫌な顔で戻りぬ恋の猫
☆土塊をつけて戻りぬ恋の猫
汚れるのをとても嫌う猫がつけてきた「土塊」。きっとその恋は不首尾に終わったのでしょう。感情的な表現抜きで、この季語の本意に迫った力作です。
名にし負う安達ケ原の猫柳

59 氏名 中野 尋恵
猫の恋家留守にして流浪旅

60 俳号 浦嶋和子
猫の夫全て請け負い爪研ぎぬ
☆猫柳風のエールに煌めきて
エールを「応援」と言い換えてもしっくり来ず、このままでいいかと思われます。明るい作品です。

61 俳号 浦崎まゆみ
引っ越しの車曲がれば猫柳

62 氏名 比嘉 啓文
猫柳流れる雲とともに揺れ

63 氏名 松川 しのぶ
まだ淡き光集めて猫柳
猫柳我一人知る川辺かな

64 氏名 畑畠 美千代
お互いに鳴き合う声は猫の恋

67 俳号 田中恵子
ちっぽけな憂さなど晴らす猫柳

68 氏名 杉本 昌代
燦然と水面に映る猫柳

70 俳号 高島實子
恋を遂げおっとり猫の細りをり

71 氏名 山﨑 三十子
ただならぬ声に驚く猫の恋

72 俳号 小西博子
猫柳空に応えて進むべく

77 俳号 徳永恵楓
猫柳一つ見つけて友を呼ぶ

78 氏名 小野 千早子
☆点滴の一滴一滴猫の恋
夜を徹しての点滴なのでしょうか。「滴」の繰り返しがちょっと切なく、季語と響き合っています。
病室の戸口確かめ猫の恋

80 氏名 菅野 純紘
猫の恋書棚の整理されぬまま

83 俳号 木本天祐
恋猫と図らずも目の合ひにけり

86 俳号 三貴子
せせらぎに光集めて猫柳

87 氏名 田邊 法子
よそ行きの顔して戻る恋の猫
☆もう跳べぬ小川きらきら猫柳
老いを美しく描くとこういった作品になります。実際に飛び越えることができなくなったぶん、創作の翼はたくましくなるのでしょう。

89 俳号 聖子
ゆっくりと回る水車や猫柳

90 俳号 おおもと文薫
ふっくらといつもの場所に猫柳

95 俳号 伊崎宏子
鳴き交わす恋猫のいる無人駅

100 俳号 小宮美也子
ささやかな声を発する猫柳

101 俳号 美紗
猫柳銀色の風まとうなり

102 氏名 木村 絢子
銀色の川風やさし猫柳

103 氏名 青木 豊江
☆恋猫に読書の山場くづされて
「せっかくいいところだったのに」という溜息が聞こえてきそう。ご自分にひきつけて詠んだことで広がりが生まれました。
☆恋猫の帰らぬ家のうすあかり
万太郎の句のさびしさがふと漂ってくるような句。待っている気持ちがそこはかとなく伝わります。
追ひ越してふり返る子や猫柳

104 俳号 長澤きよみ
☆猫の恋蜑の路地裏けたたまし
この季語と路地裏はつきすぎのようですが、この句、「蜑」がいい。狭さが見えてくるからです。
大店の土蔵の屋根の猫の恋

105 俳号 ゆうだち
川筋を二人でゆけば猫柳

106 俳号 輝輝
猫吸いをしたくなるよな猫柳

107 俳号 長岡純子
畦道を呼び合ふ声や猫の恋

111 俳号 川端日出子
猫柳日射し集めて膨らみぬ

114 俳号 雅月
猫柳やさし陽射しにふくらみぬ

115 俳号 西山レモン
☆猫の恋とりもつように裏戸開け
「とりもつように」がとにかくおかしい。お節介めいているところもいいですね。

116 氏名 林 佐知代
ひたすらに求めるばかり猫の恋

118 氏名 黒岩 雅弘
猫の恋水も空気もにぎやかに

121 氏名 笠倉 まゆみ
追い風をペダル軽やか猫柳
雨粒の弾けぬままの猫柳

124 氏名 谷脇 照美
猫柳わが城の窓ひかりだす

126 氏名 青木 美保
軒下のけたたましきや猫の恋

134 氏名 植森 恵美子
朝まだき猫の恋にて起こされぬ

135 氏名 澤邊 義典
堂々と歩を進めゆく恋猫よ
今までは姿なきなり猫の恋

136 俳号 杤尾まほ
怖いもの知らずの高さ猫の恋
☆人の名の池のしづけさ猫柳
この季語を用いた句の多くが川と取り合わせています。この句は池、しかも人名が付いているといいます。三四郎池あたりでしょうか、想像するのが楽しい句です。
せせらぎを聞きわけてをり猫柳

139 氏名 林 美智子
猫柳活けて我が家に光来る

145 俳号 鈴木美和子
☆つくづくと血縁多し猫柳
血縁が少ないのはちょっとさびしい。しかし、多ければそれはそれで煩わしいことが倍増するのでしょう。季語への飛び方が面白い句です。

146 氏名 細川 京子
猫の恋浅き眠りとなりさうな

148 俳号 伊藤京子
☆飼い主のこころざわめく猫の恋
やきもきしているさまが見えてくるよう。父や母の気持ちになってしまうのでしょうか。

149 氏名 久保田 弘子
日の当たる古墳の山に猫柳

150 氏名 長松 素子
初めての吾子抱いた日や猫柳

151 氏名 藤川 知之
猫柳届かなくとも指ぬくし

152 氏名 駒木 典子
☆青空へほつほつ飛んで猫柳
「ほつほつ」がとにかくいい。躍動感のある猫柳の句は珍しいと思います。

154 氏名 南 功治
ふわふわの姿愛しく猫柳

155 氏名 矢橋 徳子
投票へ猫柳まだ衣を纏ひ

157 氏名 川原 厚子
何処からか聞こえるいのち猫の恋

160 氏名 本間 勝
繰り返し髭ととのえて猫の恋

161 氏名 吉田 鈴子
声明の流るる古刹猫の恋
☆猫柳一粒ごとの光かな
中七の丁寧な描き方が素敵でした。愛らしさもあります。

162 氏名 檜山 八穗子
☆おずおずと触れて温しや猫柳
上五の遠慮がちな様子が面白い。さわると壊れてしまいそうですものね。

163 俳号 國井あき
☆大川に泡を残して春隣
臨場感があり、とてもいい句だと思いました。しかし、せっかく兼題があるのですから、ぜひ、題に挑戦してみてください。

164 氏名 山﨑 寿史
夜空まで響き渡るか猫の恋

165 俳号 紅花
うす赤く夜のあけ初めし猫の恋

166 俳号 田中多加代
猫柳思いのままに陽を浴びて

168 俳号 白尾恵子
上向きてわれを鼓舞する猫柳

169 俳号 冨湖
恋猫の二匹のゆくへケセラセラ
もてなしの淡き紅さす猫柳

170 俳号 NICO
息切らし迷路抜け出す猫の恋

171 俳号 西田佳代
雲ひとつ手広げて待つ猫の恋

172 俳号 にっこり月子
鉄橋に二両の電車猫柳

174 氏名 西 義信
何語る白き一団猫柳

175 俳号 七宝猫
☆決戦は駐車場にて猫の恋
「決戦は日曜日」という歌を思い出しました。なるほど、猫にとっては駐車場が表舞台ですね。

180 氏名 千葉 明子
黒猫の恋一筋や夜ひびく

183 氏名 木村 裕子
休日は赤いつけ爪猫柳

184 俳号 長尾笑元
恋猫や庭の箒もなぎ倒し

185 俳号 脇田弥生
厳格な父にあげたい猫柳

186 俳号 カモミール
せせらぎの光も束ね猫柳

187 俳号 まきの夢路
猫柳岸一面に広がりぬ

190 俳号 山本五之三
青空へ警笛ひとつ猫柳
☆猫の恋路地を抜けまた路地に入り

なるほど、と思いました。路地に始まり、路地に終わるのですね、猫の恋は。納得です。
猫柳会釈する子に会釈せり

191 氏名 小栁 美千代
店先のバケツにひそか猫柳

193 俳号 和多辺伶依
猫の恋言い分多き屋根の上

196 俳号 志方早葉
恋猫の外の階段駆け上がり

199 俳号 小野公柄
貴婦人に触れたる心地猫柳

201 俳号 百 博泉
着付けしてそぞろ歩きの猫柳

204 氏名 岡田 慎太郎
☆神戸なる知己の酒場や猫の恋
実は猫の恋と都会、それも港があるところはよく合います。どんな渋い酒場か、それともモダンな酒場か、想像したくなる句ですね。
立ち漕ぎの影颯爽と猫柳

205 俳号 兵頭光子
猫柳光のつぶの弾けたり

206 俳号 桜井 伸
せせらぎの音のととのふ猫柳
街角に新しきカフェ猫柳
☆松の湯の高き煙突猫の恋

銭湯のあるような町と猫の恋はまことによく似合います。銭湯を代表するような名前がまたいい。よけいなことをいわないよろしさがこの句にはあります。

207 俳号 水島五月
☆肉球を思ひて撫づる猫柳
かわいい、その一語に尽きます。肉球よりは猫柳のほうがかなり毛深いようですが。
鈍色の空明らめる猫柳
溜め込んだ思ひの晴れて猫柳

209 俳号 白房
ぬばたまの袋小路や猫の恋
☆屋根裏の荷風全集猫の恋
荷風の有名な句がありますので、そこから発想したのでしょう。残念ながら今は誰も読まない荷風全集の埃っぽさを思いました。

211 氏名 平田 和美
闇を突くさすらう声や猫の恋

213 氏名 鈴木 康正
ペダル漕ぎ午後の日差しや猫柳

216 俳号 髙橋瑞穂
遠ざかる恋猫の声夫と聞く

218 氏名 逸﨑 匡子
影二つ離れて座る猫の恋

222 氏名 清水 純子
風呂でそっと盗み聞きする猫の恋