講評 2025年10月

兼題「秋の声」「冬近し」

総評に代えて

〇「木の葉」「落葉」「枯葉」、みな季語です。不用意にほかの季語と一緒にしないようにしましょう。「白息」「寒し」など、たくさんの(季語が二つの)例がありました。
〇今回は語順が惜しいと思われる作品が多かったように思います。句ができたら、一度立ち止まって読み直してみてください。よりよき語順を探しましょう。
〇「秋の声」は気配の季語ですから、実際に聞こえても聞こえなくてもよいのです。むしろ、聞こえないものを聞き取ったほうが、句に奥行きが生まれるかもしれません。
〇前の季節に対する嘆き(たとえば夏の異常な暑さ)を句にこめる必要はありません。俳句は「今」が全てです。前の季節のことはきれいに忘れてください。
〇「秋の声」と「虫の声」は無関係だと考えてください。
〇添削して選に入れた句がいくつかあります。

櫂 未知子

1 俳号 宝
耳すまし手拭い首に秋の声

2 俳号 カモミール
故郷の変はらぬ匂ひ星月夜

5 氏名 齊藤 健一
人影の去りし田畑に秋の声

6 俳号 和田正尚
掌の茶の温もりや冬近し
びしびしと窓を打つ雨冬近し

7 氏名 西條 光子
早々と夕陽落ちるや冬近し

11 氏名 星野 茂美
秋の声同窓会に別れあり

12 氏名 寺島 裕之
☆牛乳を小鍋に移す冬近し
何気ない日常が描かれています。

18 俳号 渡辺 葉月
アップルパイ焼き上がる香よ冬近し

20 氏名 山本 厚子
黄身しぐれ含めばほろり秋の声

21 俳号 やまやま
何気なく寄り添うふたり冬近し

23 氏名 伊藤 美子
冬近し出してはしまう衣服かな

24 氏名 小谷 治子
☆秋声や子の遺したる辞書重し
その子の声が辞書の行間から聞こえてくるような……切なく、美しい句。

26 俳号 松本敬香
冬近し犬の散歩はお日様と

27 俳号 文月詩架
街角のテラス閉鎖や冬近し

29 氏名 財津 光明
なぜかしら人肌を恋う冬近し

32 氏名 纐纈 しず子
冬近し手水舎の水そっと受け

33 俳号 白房
山稜の空支えつつ秋の声
飼い猫のいよよ寄りくる冬近し

34 俳号 千羽
☆寝返りのたびに月光秋の声
西洋の童話のような一句。お城の中のようですね。

35 氏名 中濱 広子
包丁の手をふと止める秋の声

37 氏名 比嘉 啓文
夜の帳やさしく響く秋の声

38 氏名 中野 尋恵
段々と食欲増すや秋の声

40 俳号 根岸さち
☆カタカナの母の名前や冬近し
たしかに昔の女の人の名は、トメ、リセ、ハナなどカタカナが多かったですね。何とも懐かしい句です。

41 氏名 岡村 典子
梢より赤み帯びくる秋の声
☆床一面をたゆたふ影や冬近し

ちょっと不思議な雰囲気のある句。光の渦のような、影の氾濫のような。

42 俳号 瀬戸の風
肩越しに秋の声して針を持つ
☆新聞の折れ目にひそむ秋の声

この季語にしてはとても具体的な素材を用いています。新聞もまだまだ句材としての可能性があるのですね。

44 俳号 案山子
冬近し小走りで行く歯医者かな

47 俳号 古蔵 花音
闇迫る仕事帰りや秋の声

48 氏名 村松 みゆき
唇に吹いて感ずる秋の声
☆冬近し丸ごと煮えるポトフかな

頼もしいポトフ。その季節が来たのだな、とこの句が教えてくれます。

49 俳号 金坂千位子
一センチ髪伸びただけ冬近し
☆冬近し人の住む家住まぬ家

不思議なことに、住んでいるか空き家かはそれとなくわかるものです。後者には打ち捨てられた感じがたしかにしますね。

50 氏名 長松 素子
秋の声空白多き日記帳

52 俳号 三貴子
秋の声空にV字の鳥の群れ

54 氏名 北村 貞子
星一つまた星一つ秋の声

59 俳号 浦嶋和子
草の根を訪ね歩くや秋の声
漬物桶五個打ち揃い冬近し

61 氏名 吉井 さえ子
風音に耳すませけり秋の声

65 氏名 星谷 絹代
庭の蛇口ぐるぐる巻くや冬近し

66 氏名 財津 副代
香ばしき匂い拡がり冬近し

67 氏名 小林 茂之
化野の石仏二体秋の声
☆秋の声五百羅漢の寡黙かな

百態百様の五百羅漢。口をあけ叫んでいるように見えるのもありますが、もちろん静かです。いいところに目を付けました。
人のなき九十九里浜冬隣

68 俳号 米崎 璃津子
陽の暮れる早さで老いる冬近し

69 氏名 南 功治
東屋の影薄くして秋の声
山祀る社は静か冬近し

70 氏名 小田川 浩三
公園の木々一休み秋の声
街路灯早く灯るや秋の声

71 俳号 伊藤京子
夜もすがら窯の火守りて秋の声
冬近しタイヤ交換子に頼み

72 俳号 小平笑夢
うどん屋の招き猫の手秋の声

73 氏名 木村 絢子
天窓に射し込む朝陽冬近し
玉砂利を踏めば聞こえる秋の声

74 俳号 杤尾まほ
秋声や海へ向きたる道祖神
☆冬近し猫語解せず日の暮るる

ちっとも人間に譲歩しない猫。でも、だからこそ詩を生むいきものなのかもしれません。
シュレッダー一杯になり冬隣

75 俳号 小西博子
砂浜の子犬の影や冬近し

76 俳号 水間水仙
新しいペンを片手に秋の声
暖色に家々灯る冬近し

77 俳号 中村 千恵子
自転車のペダル軽やか秋の声

78 俳号 田中恵子
宅急便開ける楽しみ秋の声

80 俳号 輝輝
幽きは叢からの秋の声

82 氏名 疋田 ちづ子
さざ波の七里ヶ浜に秋の声

84 俳号 塩田みどり
☆映画めく舟宿並び秋の声
本物に見え、しかし、どこか嘘っぽく。そんな場所だからこそ、秋の声が似合うようです。

85 氏名 小林 真寿美
みどりごを抱く胸にも秋の声

86 俳号 秋乃雫
ぐりぐりとリップクリーム冬近し

87 氏名 小野 幸代
もう一歩草かき分けて秋の声

88 氏名 植森 恵美子
風鳴きて秋の声かと振り返る

89 氏名 山﨑 三十子
家々の夕餉の香り冬近し

90 俳号 稲川 優子
テレビ無き夜の清しさ秋の声

91 氏名 谷脇 照美
冬近し砂浜広し吾一人

92 氏名 細川 京子
すべり台くぐり抜ければ秋の声

93 氏名 林 美智子
家中のスリッパ替えて冬近し

94 氏名 田邊 法子
電車二両鉄橋渡る秋の声
乗り降りの誰もなき駅冬近し
☆冬近し風化のしるき船の底

船の底。とてもいいところに着目しました。水辺の生活の、ある厳しさがしのばれます。

96 俳号 長岡純子
銀輪のライト二つや冬近し

97 氏名 吉田 鈴子
離宮へと続く竹垣冬隣
しばらくを庭眺めをり冬隣

98 俳号 二人静
青空の雲の形や冬近し

99 俳号 青木卯
冬近し吐く息雲へ昇りゆき

100 氏名 穴繁 惠美子
ゆつたりと雲の行き交ひ秋の声
ふつふつと湯気の恋しき冬隣

102 氏名 松川 しのぶ
冬近し六甲の山静かなり
冬近し丹念に掃く玄関先

103 氏名 笠倉 まゆみ
ゆつくりと色を一つに冬近し
冬近し午後の薄日のぼんやりと

104 氏名 鵜殿 茂
足元の軽き目覚めや冬近し

105 俳号 山城翔雲
電線の一羽の鳥や秋の声

106 氏名 青木 豊江
神官の衣の白さや秋の声
冬近しあはき日の差す奥座敷
☆表札の跡くつきりと冬隣

転居されたか、売却されたのでしょう。「くつきりと」がかえって物悲しく響きます。

107 俳号 川端日出子
点滴の落ちし拍動秋の声
☆病棟の夜勤を終えて秋の声

厳しい仕事を終えたからこそ気付く秋の声。命の現場だからこその奥行きのある句ですね。
看護師の欠伸一つや冬隣

114 氏名 足立 ひでみ
雨の音静かに聞こゆ冬近し

115 氏名 駒木 典子
病室に囚われし君秋の声
冬近しカーブに軋む終列車

116 氏名 桑原 堆子
本読めば足元冷えて冬近し

118 俳号 彰弘
味噌汁に菜の香り立つ冬近し

119 俳号 聖子
冬近し木曽の川原の白き石
コインランドリーゆつくり動く冬隣
☆秋声や閉じて十日の窯温し

取り出されるのを待ちながら陶器はゆっくりと冷えてゆくのでしょう。窯に触った時の実感が素晴らしい句。

120 俳号 西村せつ子
うたた寝の赤き爪の子冬近し

121 俳号 ゆうだち
折々の文を燃やせば冬近し
秋声やただひとつ咲く白き花

122 俳号 徳永恵楓
ベランダは店仕舞いなり冬近し

124 俳号 十勝 晴尋
待合室呼ばれて覚める秋の声

125 俳号 伊崎宏子
舞子浜そぞろ歩けば秋の声

126 氏名 千葉 明子
母の編む襟の結び目冬近し
冬近し旅の本ある書棚かな

127 氏名 林 佐知代
明け方のシリウス清し冬近し
しとしとと春日の杜の秋の声
☆冬近し膝を取り合う猫二匹

何とも可愛い猫の句。身勝手さがこの句の楽しさです。

128 氏名 川原 厚子
手のひらで湯呑みつつみて冬近し

130 俳号 柴田康香
秋の声耳も心も庭にあり

131 氏名 菅野 純紘
思い立ち便りを書くや秋の声
熊のこと熊に聞くべし秋の声

132 氏名 北尾 敦子
冬近し日向を選ぶ散歩道

133 俳号 齋藤弘子
屋根瓦遠ほくに澄んで秋の声

134 俳号 椎木 雅子
☆靴下のほころびひとつ冬近し
ちょっと気になる、しかし面倒。そんな小さなためらいが面白い句です。

137 俳号 野原
冬近し賽銭響く石畳

141 俳号 橋本千蓼
冬近しサボテン達の声聞こゆ

142 俳号 梓小雨
夕暮れの土手には一人冬近し
水流の音弱まりて冬近し

143 俳号 高島實子
万博の跡地に立てば秋の声

144 俳号 縞
脳外科の廊下の白さ秋の声
豆殻の軽い音して冬近し
☆冬隣母の言葉は柔らかく

間もなく冬というのに、あくまでも優しいままの母。下五に心がなごみます。

145 俳号 百 博泉
防波堤越ゆる白波秋の声
滑らかに船進みゆく冬近し

148 氏名 横松 きよみ
縁側で真綿広げん冬近し
新しき灰に火箸を冬近し

149 氏名 西野 悦子
秋聲や草に埋もれし道祖神
川風や鯉固まりて冬近し

150 俳号 白尾恵子
☆冬近し若き日の服あててみる
どちらかというと寂しい内容の多いこの季語を用いつつ、愛らしい一句に仕上がりました。似合わないのはわかっている、でも……といういじらしさがあります。

151 俳号 Tetsuko Terasawa (寺澤哲子)
竹の葉を揺らしゆく風秋の声
冬近し予防接種の袖まくる

152 俳号 佐登華
寺からの周忌の便り秋の声

153 俳号 城下早苗
繋ぐ手の温もりうれし冬近し

154 氏名 久保田 弘子
秋の声下校する子等ちりぢりに
秋の声鳥一直線に空の青

155 俳号 にっこり月子
戸袋の奥のもの出す冬隣
はちみつに湯をたつぷりと冬隣

156 氏名 千田 洋子
冬近し踏みつつ追いて夫の影

157 俳号 鈴木美和子
☆さらにまた羽織る楽しさ秋の声
じつは、「秋になって急に涼しくなったので長袖にした」「一枚羽織った」という句はたくさんありました。しかし、「楽しさ」まで言った句はこの句だけでした。
首に巻くスカーフ馴染む秋の声

158 氏名 藤川 知之
秋の声日めくり暦ふと見たり
秋の声郵便受けの錆びた鉄

159 氏名 雪竹 澄子
冬近し鉢物の位置換えもして

160 俳号 田近代子
窓からの射し込むひかり秋の声

162 俳号 雅月
カレンダーめくればさらり秋の声
藁はこぶ農夫の影や冬近し

164 氏名 澤邊 義典
冬近し海苔船走る瀬戸の海

165 氏名 矢橋 徳子
秋の声アスレチックの森翔ける
冬近し鉄棒掴む小さき手

166 俳号 岡本清髙
連れ添って四十五年秋の声
冬近し九十九折りなる烏帽子岳

167 俳号 もりしたすみこ
陽だまりにピアノ旋律冬近し

168 俳号 水島五月
☆窓に映るわがかほ白し冬近し
もとの句は「わがかほ白く」でしたが、切れをはっきりさせるために(そしてリズムを整えるために)「わがかほ白し」にしてみました。いかがでしょうか。
靴紐をきりりと締めむ秋の声
風の道に佇みて聞く秋の声

169 俳号 桜井 伸
☆鳥の曳く水尾まつすぐに秋の声
迷いのなさそうな鳥の水尾のきっぱりとした白さ。季語との取り合わせの仕方もみごとです。
秋声や畑をよぎる鳥の群
雨音のくらき朝や冬近し

171 俳号 伴 めぐみ
電線の鳥でいっぱい冬近し

172 俳号 おおもと文薫
冬近し犬も窓辺で毛づくろい

173 氏名 津森 鈴子
ひきしまる肌に触れたる秋の声

174 氏名 小野 千早子
秋の声空も何処も暮れにけり
両隣り森閑として冬近し

176 氏名 河崎 柳子
☆冬近しページ荒々しく捲り
この句、語順を変えて頂いています。もとの句と見比べて、どうなったかを考えてみるのもいいかもしれません。

177 俳号 山本五之三
秋の声家猫の二度震えけり
☆冬近し銀の風船梢(うれ)に揺れ

「梢」はこずえと読ませると字余りになります。「うれ」もご参考に。

178 氏名 富永 美智子
夕暮れに飛び立つ群れや秋の声

179 俳号 前田 椛
冬近し朝のポットの湯気ひとつ

182 氏名 檜山 八穗子
窓越しのかそけき葉ずれ秋の声
目を閉じて秋の声聞く待合室

183 俳号 矢羽田兎海
秋の声ゆらぎの中に沈潜す

184 氏名 松﨑 亜矢子
湯に遊ぶ子らも手を止む秋の声

185 氏名 西山 正明
洗顔の水の冷たさ冬近し

187 俳号 瀬古和子
冬近し草の根強く生きんとす
秋の声伸びし垣根の向こうから

188 氏名 平田 和美
冬近し鉢物家に入れもして

189 俳号 古田 啓
手を取りて急ぐ家路や冬近し

192 俳号 美紗
冬近しもみ殻返す人の影

193 俳号 西山レモン
保温剤入り弁当や冬近し

196 俳号 脇田弥生
街灯がぼんやり赤い秋の声
かすかにも煙が山へ秋の声

197 俳号 松岡青空
朝まだき開ける窓から秋の声

198 氏名 小牧 正人
旅人の通り過ぎしは秋の声
冬近し稜線を見て物悲し

199 氏名 西 義信
塒(ねぐら)へと急ぐ鳥たち秋の声

201 氏名 伊木 秀明
冬近し嫁ぎし子への長電話

203 氏名 鈴木 康正
軍手して散歩の夫婦冬近し

204 俳号 薩摩乃甘藷
草木揺れ重なりあえば秋の声

207 俳号 みーたま
冬近し車のドアの静電気

208 俳号 髙橋瑞穂
峠より平地に向う秋の声

209 俳号 北見薄荷
揺れている輝いている冬近し

210 俳号 いけした きよこ
冬近し日ざしが部屋の中までも

211 俳号 匡華
万博の跡の静けさ秋の声

212 氏名 髙 理恵
冬近しペレットの山高くなり

213 俳号 富海善風
風抜けて心に小さき秋の声

214 俳号 宮崎理恵
☆足元に七色の羽冬近し
動物園の孔雀か何かの羽でしょうか。不思議な華やかさのある句です。

216 俳号 志方早葉
道端の草の丈にも秋の声

217 俳号 兵頭光子
降り落つる音なき音の秋の声

218 氏名 小谷松 直子
三山のあれが香具山秋の声

219 俳号 七宝猫
☆冬近し母が手を振る線路ぎわ
この句も語順を変えてあります。もとの句のかたちを想像してみてください。

220 氏名 藤原 克敏
冬近し縄文鍋に舌つづみ

222 俳号 冨湖
☆ポタージュのとろりと甘し冬隣
大きな季語にはごく日常的な一コマを取り合わせる、そんな俳句の王道をゆく句ですね。
黒猫の香箱座り冬近し

223 氏名 山﨑 寿史
街の中黒くなりけり冬近し

224 氏名 小柳 美千代
ささくれにクリーム伸ばす冬近し
秋の声微かに列車過ぎゆけり

225 氏名 山﨑 佳子
つないだ手暖めたいよ冬近し

226 氏名 前原 由美子
城趾に広がる灯り秋の声

227 俳号 井上優女
☆冬近し手足の荒れが教えたり
本当は「手足荒る」という季語もあるのですが(大きな歳時記に載っています)。

228 氏名 木村 裕子
落つる実を無心に拾う冬近し

229 俳号 大樹佐保
雨音に包まれし夜冬近し

230 氏名 岡田 慎太郎
☆いろいろの炊き込み飯や秋の声
上五の大ざっぱさが面白い。素材を特定してしまうとそちらの方がメインの季語になってしまいますので、それを避けたのでしょう。

232 氏名 堀江 春代
冬近し部屋に入り込む陽の角度

233 俳号 紅花
秋の声ひと味違うなぽりたん
冬近し小銭の山の募金箱

235 俳号 山﨑詩乃
航跡の生まれるところ秋の声
冬近し占い本に手を伸ばし