講評 2025年3月

兼題「日永」「蛙」

総評に代えて

〇「日永」にはすでに「日」が入っていますので、お日様や空のことを(句の中で)別途述べる必要はあまりありません。また、時間をいう必要もありません。この季語自体が日の永さ=時間をあらわしているからです。
 雨が降っている日は、「日永」という季語は使いにくいものです。太陽が出ていないためです。
〇「蛙」は春の季語、「雨蛙」「青蛙」は夏です。ご注意ください。また、「蛙の子」はおたまじゃくしのことで、蛙そのものとは別の季語になります。
〇「ブランコ(ぶらんこ)」は春の季語です。この世は季語だらけ、投句する前に「これは季語かどうか」を必ず調べてみてください。「夕焼」「西日」なども見られました。これらも季語です。「一句に季語は一つ」をまずは目指してください。
〇絵に描いた季語は季語にはなりません。季語はなまものです。
〇添削をしてからいただいた作品もあります。

櫂 未知子

2 俳号 大樹佐保
お使いのあぜに跳び出す蛙かな

5 氏名 岡田 慎太郎
永き日にまゐる古刹の菩薩かな
あまたたび服脱ぎ換ふる日永かな

8 俳号 佳月
新しき事始めたる日永かな

9 俳号 小池聖明
蛙鳴き米寿祝いの歌響く

10 俳号 伴 めぐみ
窓際で微睡む猫や日永し

11 俳号 水島五月
☆丁寧に三和土を払ふ日永かな
なんとも懐かしい雰囲気のある句。誰かが訪れた、あるいはどやどやと押し寄せたのかもしれません、そんな「三和土(たたき)」をひっそりと清めるひと。華やかさはありませんが、土間に差し込んでくる光が感じられ、かなり素敵な作品でした。
いつまでも手を振つてゐる日永かな
忘れ来し約束思ふ遠蛙

13 氏名 百留 博子
よそゆきの服を買いたる日永かな

15 氏名 川 智貴
石板の文字読み通す日永かな

16 俳号 浦崎まゆみ
野良仕事なかなかやまぬ日永なり

17 俳号 兵頭光子
暮れがたのペダル嬉しき日永かな

19 氏名 佐藤 邦子
はつかわず庭の葉陰の夕ぐれに

20 俳号 髙橋瑞穂
待ちあぐむ遠き蛙の歌う声

21 氏名 本間 勝
畝立てて苗床ふやす日永かな
蛙鳴き雨足白き水田かな

25 俳号 西山レモン
あてもなく地図を片手に日永かな

26 俳号 井上優女
久方に外干ししたる日永かな

29 俳号 北見薄荷
供の無き散歩の道の蛙かな
帰りこぬ名を呼ぶのみの日永かな

30 氏名 千葉 明子
上々と仰ぐ青空日の永き

31 氏名 小野 公柄
砂浜の銀色に照る日永かな

32 俳号 梓小雨
永き日や団子を提げて回り路
☆あちこちと土産を探る日永かな

ひじょうに日本人的な句です。仕事でも観光でもどこかに出かけたならば、ジャパニーズは「土産」を探す……それは留守を守る人たちへの優しさなのかもしれません。

34 俳号 矢羽田兎海
山の端に夕陽見送る日永かな

35 俳号 西田茜丸
足繁く見舞いに通う日永かな

37 俳号 右陣平
☆古文書とにらめつこする日永かな
もしかすると「古文書」ではなく古地図なのかも。いにしえに思いを馳せる様子が季語とよく合っています。
永き日や古地図の中に江戸があり

38 俳号 薩摩乃甘藷
イヤホンを外し蛙の唄を聞く

39 俳号 川端日出子
夜蛙の子守唄聞く総本山
いつせいに鳴き一斉に止む蛙

40 俳号 田中多加代
畑仕事終えし一服日永かな

42 俳号 山本五之三
受話器より田蛙の声父の声
売り家の更地となりぬ昼蛙

43 氏名 荻野 和子
バス降りて明るさ残る日永かな

44 俳号 加賀 靖彦
庭駆ける靴音軽き日永かな

46 氏名 矢橋 徳子
合格を言祝ぎて日の永きこと

48 氏名 西野 悦子
畦道を行けば左右に蛙飛ぶ

49 俳号 寺崎美知恵
子が見たる半目の蛙座りおり

52 氏名 藤川 知之
日永道あせる事なくペダル漕ぐ

53 氏名 藤原 克敏
縄文のふるさと集う蛙かな

54 俳号 桜井伸
鍬いれて鍬のすきまの蛙かな
をちこちにかはづ跳ねたる畑かな
☆峻峰をかかげ日永のバスを待つ

いっぽうに険しい山があり、そして手前ではのんびりと「バス」を待つ人がいて。めりはりのきいた、とてもよき作品だと思われます。

55 俳号 志方早葉
縁側に長い影ひき日永かな

56 氏名 堀江 紀子
畔道や跳ねてる蛙見送って

57 氏名 河崎 柳子
壁に蹴るボールの音や日の永し

58 俳号 長岡純子
歌声の室はみ出して日永かな

59 俳号 山﨑詩乃
がに股をついと伸ばせる蛙かな

60 氏名 髙 理恵
日永なり洗濯物の揺れる音

64 俳号 春うらら
永き日や父の魔球は弧を描き

65 俳号 前田 椛
庭先の父子のバレー日永なり

66 氏名 足立 ひでみ
あの本もこの本も積み日永かな

67 氏名 屋形 雅代
☆永き日や牛追う人の影長し
「永き」「長し」がぶつかっていてややうるさいのですが、ゆったりとした内容にかなり惹かれました。

68 氏名 原田 冨湖
写経の背ぴんと伸びたる日永かな

71 俳号 にっこり月子
クレーンの首もたげゐる日永かな

74 俳号 長澤きよみ
☆永き日や葛籠を作る六代目
けっして派手さのない職人仕事が伝承されてきた驚きがこの句にはあります。「葛籠(つづら)」ですから、おそらくは山の奥なのですね。
永き日や太き馬柵棒外されて

75 俳号 鈴木美和子
撮る場所をあちこち探す日永かな
永き日や二か月ぶりにパンを焼く

76 俳号 十勝 晴尋
三姉妹揃へば尽きぬ日永かな

78 氏名 伊崎 宏子
縁先に憩う二人の日永かな

79 俳号 伊藤京子
永き日や緋色に染まる夫の顔

81 氏名 横松 きよみ
年寄りの腰も伸びたる日永かな

82 氏名 菅野 純紘
畑に出て為すこと多き日永かな

84 氏名 長野 美智子
針を止めくぎりをつける日永かな

87 氏名 塚本 富士子
☆口を開く貝を観ている日永かな
やがて食べてしまう「貝」なのでしょう。それをじっと見ていたところにある種のペーソスがあります。
永き日や繰り返し読む母の文

91 俳号 寺澤哲子
☆ゆうゆうと鯉泳ぎいる日永かな
人の世のあれこれと無関係に「鯉」は自分の本分をまっとうしています。ごたごたいわないところがこの句のよろしさです。
かくれんぼ何度目の鬼ひながなる

92 氏名 小牧 正人
日永し体内時計調整す

93 氏名 小田川 浩三
街路灯まだ灯らざる日永かな

94 氏名 小谷松 直子
記念にと手鏡贈る日永かな

95 俳号 和田正尚
田蛙の声にぎやかな西の京

96 氏名 久保田 弘子
永き日や月草色の山仰ぐ

98 俳号 輝輝
試しとて吃吃と鳴く蛙かな

99 氏名 櫛井 久仁子
日永なり声援上がるグラウンド

102 氏名 津森 鈴子
ペダル漕ぎ時を忘れる日永かな

103 氏名 川喜田 千加代
日永し母の夕餉の遅れけり

106 氏名 南 功治
月末は鳴いてくれよと初蛙

107 俳号 根岸さち
夜蛙の啼きて赤子の声高し

108 俳号 富士英明
蛙鳴く夜の田面に光さす

109 氏名 比嘉 啓文
背の湿布なかなか貼れぬ日永かな

110 氏名 松川 しのぶ
☆独り身にやっと慣れたる日永かな
伴侶を失ったのか、それとも独身に戻ったのか。この季語の明るさに救いがあります。
永き日や栞を先に進めたり

111 氏名 澤邊 義典
永き日や孫得意げのブランコよ

112 氏名 森下 須美子
日永なりケーキのような富士見えて

114 俳号 濱武由美子
縁側に小さき母と日永かな

115 氏名 駒木 典子
読み聞かす子は眠たげに遠蛙
☆永き日や脱走猫の毛づくろひ

「脱走」したことなど忘れたかのような猫。せっせと「毛づくろひ」をするさまが何ともユーモラス。

116 俳号 すみえ
☆釣船のゆったり浮かぶ日永かな
おおらかで、とても気分のよい句です。「船」は小さなふねをあらわす「舟」でもいいでしょう。

117 氏名 西 義信
蛙らの夜の歌会いつ終わる

119 俳号 米崎 璃津子
ふるさとは山懐に夜の蛙
どの過去のわたしと遊ぼっ日の永き

120 俳号 NICO
校庭に拡がる影や日の永き

121 俳号 二人静
駄菓子屋のこの賑わいも日永かな

123 氏名 桑原 堆子
レプリカの乳母車掌に日永かな

127 氏名 小野 千早子
杖をつくほどでもなくて日永かな

128 俳号 小西博子
ぽちぽちと種をポットに日永なり

129 氏名 御手洗 陽子
放課後に遊ぶ約束日の永き

130 氏名 疋田 ちづ子
☆折り紙を孫に教わる日永かな
「教える」のではなく、「教わる」に意外性があり、かなり面白いです。立場の逆転によって、句の味わいががらりと変わるよき例ですね。

132 俳号 辻井裕子
亡き夫を思い起こしし日永かな

133 氏名 北村 貞子
夕闇にさみしがりやの蛙をり

134 氏名 小林 茂之
☆永き日の神話の浜に立ちにけり
「神話」だからというのではなく、とにかく堂々たる句。もしかすると国生みの伝説の残る地なのかもしれません。美しい作品です。
一本の茶柱揺るる日永かな
竹寺の精進料理夕蛙

138 氏名 吉田 鈴子
買ひ出しの荷物両手に日永かな
供花手に友を訪ぬる遠蛙

140 氏名 林 美智子
日永なる舞台しつらえ梅の里

141 氏名 穴繁 惠美子
母の歳越えて九年日永し

142 俳号 まつざきやすこ
呼ぶ声は池のほとりの蛙かな

143 氏名 檜山 八穗子
昼かはづ雨のおとづれ告ぐるらむ

144 俳号 宇久
ベランダのタオルゆれたる日永かな

146 氏名 小林 真寿美
川べりをゆるりと歩く日永かな
立ち話長くなりたる日永かな

147 氏名 細川 京子
古写真広げしままの日永かな

148 俳号 縞
永き日や句帳の上で猫も伸ぶ

149 氏名 宮沢 ゆかり
☆踏み切りを急いでわたる日永かな
さりげないけれど、じつはユーモラスな句です。「日永」はものごとを急くことのない季語だからです。そのあたりの矛盾がかなり面白い。
日永しパンタグラフの輝きて

151 俳号 福徳
献血のバスに並びて日永し

157 俳号 秋乃雫
永き日や鯉の餌投ぐる幼き手

160 氏名 中岡 文子
門限を忘れて遊ぶ日永なり

161 俳号 橋本千蓼
花苗の売り場にぎわう日永かな

163 氏名 寺田 哲子
退勤の施錠明るき日永かな
とても素敵な句。ただ、もとの句は「明るし」でした。しかし、そうするといったん切れてしまいますので、「明るき」にしたいですね。

168 氏名 長松 素子
駅までの歩みの軽き日永かな

170 氏名 笠倉 まゆみ
永き日や時計何度も見てをりぬ

172 氏名 田邊 法子
☆永き日の光りて乾く産着かな
めったにないぐらい幸福感あふれる作品です。「産着」の主である赤ちゃんの明るい未来が見えてきそう。 道草の声のはじける日永かな
ワイン注ぐ蛙のこゑのあらたな夜

173 俳号 三貴子
日永なり洗濯物の取り忘れ

174 俳号 福嶋美智子
永き日や少しゆっくり帰る道

175 氏名 星谷 絹代
黒猫の手足を伸ばす日永かな

177 俳号 文月詩架
帰り道足元軽き日永かな

179 俳号 金坂千位子
日永なり刺子の布巾つくりをり

180 俳号 小野幸代
旅先きの池にあふるる蛙かな

181 氏名 山中 優
永き日の自転車丘を登りたり

182 俳号 古蔵 花音
夕食の一品増えて日永かな

183 俳号 杤尾まほ
☆初蛙奥多摩の風ほしいまま
気分よき一句。ただし、「ほしいまま」は「ほしひまま」にはなりません。
昼蛙直売野菜よく売れて

185 俳号 長谷川雪華
玄関であいさつ交わす蛙かな

187 俳号 塩田みどり
山ほどのヨーグルト買ふ日永かな
永き日や猫の尻尾のよく動く

188 氏名 山本 厚子
あてどなきお店巡りの日永かな
初蛙そっと包めるたなごころ

190 氏名 岡村 典子
☆鳩二羽と雀のあそぶ日永かな
すみずみに風を入れたる日永かな

192 俳号 夢津実
帽子ぬぎ帰宅楽しき日永かな

195 氏名 伊藤 美子
にぎやかに蛙飛び交ふ水面かな

198 氏名 小谷 治子
行間を丁寧に読む日永かな
☆永き日や一人と犬の歩道橋

200 氏名 畑畠 美千代
雨降りて蛙が顔を出しにけり

201 俳号 齊藤健一
日永なり散歩の道を長くとり

204 俳号 渡辺 葉月
☆野ねずみのひよいと顔出す日永かな
万華鏡くるくる回す日永かな

210 俳号 高矢 的
自転車をじょうろで洗う日永かな