講評 2025年4月
兼題「風光る」「草餅」
総評に代えて
〇「風光る」は動詞の入っている季語ですから、要注意。句の他の部分にはできるだけ動詞を入れないでください。
〇「風光る」の句は、自転車、ランドセルがびっくりするほどたくさん登場しました。したがって、似た句が多数あります。
〇「風光る」の句に「日」「陽」が頻出していました。季語にすでに「光」が入っていますので、それらは不要です。また、雨とこの季語は相性が悪いです。晴れていないと成立しない季語ですから。
〇「草餅」といえば、まず母。そして、祖母、ふるさと、茶。発想をもう少し飛躍させたいものです。
〇「八十路」はぴったり八十歳のこと。八十代のことではありません。「七十路」等も同様です。
〇俳句は一字あけしません。標語ではありませんので。
〇旧かなには「てふ」はあっても「ふて」はありません。したがって、「食ふて」「買ふて」はあり得ません。「食うて」「買うて」と書きましょう。
1 氏名 岡田 慎太郎
大中小草餅ならぶ座卓かな
タンデムの六甲山や風光る
3 俳号 佐藤克丸
風光るモネの絵画に入るわたし
5 俳号 川喜田
手作りの香り芳し草の餅
6 俳号 津島まあや
草餅の緑あざやか擦るほどに
7 俳号 薩摩乃甘藷
風光る山頂目指し歩く君
10 氏名 木村 裕子
☆菜園の短き畝や風光る
中七がとてもいい。「短き」に発見があります。
11 俳号 志方早葉
校門へ急ぐ制服風光る
12 氏名 久都間 繁
吾子と漕ぐ帰路の自転車風光る
13 俳号 西山レモン
しまなみを走る銀輪風光る
15 氏名 木本 和子
風光る宮の空気も樹も水も
16 俳号 兵頭光子
風光る霞ヶ浦に帆曳船
17 氏名 藤原 克敏
風光る鎮守の杜の朝げしき
18 俳号 大樹佐保
☆駆け上がるランドセル達風光る
子ども達といわず、「ランドセル達」としたところがいい。元気がよくて何よりです。
20 氏名 河崎 柳子
☆風光る丸太を運ぶ白軍手
「白軍手」に生活感があります。林業関係者なのでしょうか、力強い句です。
21 俳号 加賀 靖彦
風光る路傍の花も艶やかに
22 俳号 川端日出子
入り来るのぞみの鼻や風光る
診察は半日がかり草の餅
23 氏名 鈴木 康正
風光るひちりき奏で笑顔なり
24 俳号 矢羽田兎海
弧を描きスリーポイント風光る
25 俳号 鈴木美和子
刃物研ぐ翁の眼風光る
27 氏名 堀江 春代
草餅を作る心は母ゆずり
白球をつかみ取る手に風光る
29 俳号 伴 めぐみ
風光る子と語らいし田んぼ道
30 氏名 千葉 明子
不揃いの草餅母をもてなしぬ
風光る曲輪の浜の子産み石
31 俳号 佳月
学び舎に鐘響きたり風光る
鳴く鳥の幾つ在りやと風光る
32 俳号 七宝猫
風光る猫の足取り軽やかに
33 氏名 藤田 清美
風光る水の流れにそっと手を
34 氏名 稲見 典久
風光る波を蹴立てて小船ゆく
37 俳号 水島五月
☆ジョギングを始めた朝よ風光る
健康的で素敵ですね。歩くのが大変なかたが多い中、こういう作品を目にすると、若さがつくづく眩しく感じられます。
心までまあるくならむ蓬餅
ネクタイをやうやく結び風光る
40 俳号 野の花
鳥うたう音色優しき風光る
41 氏名 藤川 知之
☆風光る普段選ばぬ色を着よう
これも素敵ですね。心機一転、自分を奮い立たせる思いが伝わってきます。口語調がいい。
42 俳号 福嶋美智子
空色の新(さら)のスカーフ風光る
44 俳号 田中多加代
風光る浜辺に集う若人に
45 氏名 岡崎 早苗
自転車で初の詰襟風光る
47 氏名 髙 理恵
風光るスピード早い下り坂
48 氏名 矢橋 徳子
風光る我日時計の針となり
50 俳号 案山子
☆風光る吊り橋越しに谷の声
下五がとにかくいい。遠近感があり、句を立体的にしています。
52 俳号 齋藤弘子
草餅を今日の褒美に買ひにけり
53 俳号 山本五之三
風光る二階は白き飾り窓
54 俳号 古田 啓
大海に胸に帆を張り風光る
55 氏名 岡本 清髙
☆雲梯を歩む児童や風光る
少し危なっかしい感じがいい。中七、「児童」に代えて「子ども」でも。
56 氏名 松村 幾子
風光る親子微笑む始業式
59 俳号 寺崎美知恵
☆風光る子の落としもの柵に置き
ああ、こういう景ってあるなあ、と思いますね。子どもらしい「落としもの」だったのでしょう。
60 氏名 富永 美智子
風光る小さき肩にランドセル
青空に一筋の雲風光る
61 氏名 齊藤 洋子
校庭に児らの声みち風光る
62 俳号 桜井伸
後輪のパンクの修理風光る
草餅の草の中よりあんこかな
64 俳号 濱武由美子
風光る夫と歩みし宮の森
風光る笑顔あふれて宮参り
65 俳号 岡田周子
在りし日の母ただ優しくてよもぎ餅
66 俳号 長尾笑元
風光る公園の声華やぎし
67 氏名 山本 厚子
風光る左右に揺れしランドセル
68 俳号 みーたま
ペダルこぐ風光る中どこまでも
69 俳号 山城康佑
風光るペダルも軽き新学期
70 俳号 徳永恵楓
ランドセル左右に揺れて風光る
72 氏名 横松 きよみ
退院の友の背中や風光る
74 氏名 林 佐知代
高き木の飛行機雲や風光る
75 俳号 井上優女
風光る我もひかるや夢描き
77 氏名 吉田 裕子
風光る深く息すい息をはく
81 氏名 久保田 弘子
ねぎらいの言葉にかえて草の餅
82 氏名 西 義信
かけっこの背を押す助け風光る
84 氏名 澤邊 義典
風光るクロスバイクの脚かろし
85 俳号 末 博子
風光る観音様に手を合わせ
87 氏名 中村 喜己枝
草餅や在りし日の母蘇る
90 俳号 伊藤京子
石垣の逆さ地蔵や風光る
91 俳号 山﨑詩乃
☆地下足袋に柔らかき土風光る
「地下足袋」の感触をうまく生かしています。生活感がほどよく出ている句です。
94 氏名 木村 絢子
風光る観音像のそびえ立ち
95 俳号 寺澤哲子
☆草餅や外は篠つくほどの雨
取り合わせの難しい季語によきものを取り合わせてくださいました。「草餅」に「雨」は案外使われていませんでした。
96 氏名 平田 和美
新調のセーラー服や風光る
☆身にそわぬ制服の子や風光る
「制服」が大きすぎたのでしょう。少し滑稽、そして愛らしい句です。
97 氏名 百留 博子
美しく鳴き交わす声風光る
98 俳号 青空
風光る今日は日曜みなと町
100 俳号 稲川優子
☆人工の街のせせらぎ風光る
「人工」のドライさがいい。それがかえって詩情を醸し出しているようです。
101 氏名 伊木 秀明
うきうきとバイクを磨き風光る
102 俳号 山百合
風光る空を見上げて深呼吸
103 俳号 宏子
風光るトルコブルーの首飾
104 俳号 原 胞子
風光る木立の中の円居かな
105 俳号 右陣平
山頂の展望台や風光る
106 俳号 柳光 みかづき
旅立ちのプラットフォーム風光る
107 氏名 原田 冨湖
風光る百の階段登りきり
108 俳号 長岡純子
メトロ出て街の華やぎ風光る
113 氏名 小田川 浩三
風光る自転車漕いで土手川原
114 氏名 伊藤 美子
逆上がり子の挑戦に風光る
118 氏名 金坂 千位子
☆はちみつをスプーン一杯風光る
健康のためというより、楽しみのためなのでしょうか、ほんの一匙の蜂蜜を楽しむ作者。そのつつましさが素敵です。
草餅や働き者の親の指
121 俳号 小栁美千代
柏手の響きて鳥居風光る
122 氏名 駒木 典子
☆新調のブラウスひらり風光る
少し浮き立つ気分が素敵な作品です。「ひらり」に弾むこころがよく出ています。
123 氏名 小野 公柄
さくさくと貝掘る背なや風光る
草餅やただやはらかき母の胸
128 氏名 小牧 正人
浮き浮きと洗う車や風光る
130 氏名 屋形 雅代
鳥の音にこぼるる花や風光る
131 氏名 菅野 純紘
風光る校門くぐる親子連れ
132 俳号 秋乃雫
風光るマスト居並ぶ小網代湾
137 俳号 福田美雨
風光るリュック並びし背比べ
138 氏名 笠倉 まゆみ
風光るテラスにパンの匂ひかな
せせらぎの明るき音や風光る
140 俳号 浦嶋和子
☆草の根を伝う湧き水風光る
静かな静かな「湧き水」。「草の根」がひそやかでいい。
142 俳号 十勝 晴尋
釣糸をたらす川面や風光る
145 俳号 前田悦子
野道行く足音軽し風光る
146 俳号 ゆうだち
風光る大河はるかに櫂のわざ
147 氏名 吉田 鈴子
竹林の穂先のさ揺れ風光る
風光るゆるやかな坂ゆるやかに
148 俳号 塩田みどり
軽やかに通ふ図書館風光る
149 俳号 梓小雨
白球を全力で追い風光る
胸叩く草餅二つ頬張りて
150 氏名 小林 茂之
☆対岸のコンビナートや風光る
原句は「光る風」でしたが、少し落ち着きませんので、「風光る」にしました。殺風景な景色を詩的に仕上げた素晴らしい作品です。
風光る妻のエプロン蝶結び
草餅や潮の匂ひの瑞巌寺
151 俳号 新井 公子
泳ぎきる金色鱗風光る
152 俳号 輝輝
光風や自転車とばす空のさき
顔上げてスカイツリーや風光る
153 氏名 足立 ひでみ
彼方よりトラクターの音風光る
154 俳号 椎木 雅子
風光る歩みを止めて深呼吸
155 俳号 中田澄光
ランドセル背負ふ子の背に風光る
157 氏名 細川 京子
風光るこども食堂案内板
158 氏名 林 美智子
風光る路のくぼみに雨の跡
160 氏名 松川 しのぶ
草餅を友と寝ころび空に食ふ
163 俳号 小西博子
草餅は母の笑顔が付いてくる
166 俳号 長澤きよみ
☆東京湾へ突き出すデッキ風光る
じつに明るい句。のびやかでおおらかで。
168 俳号 二人静
風光る行き交う船の波しずか
170 俳号 沈香花
風光るカーブミラーに鳥の影
172 俳号 にっこり月子
白シーツ竿いつぱいに風光る
青空に鳥の羽音や風光る
173 俳号 縞錆
☆手のひらにのる陽だまりや草の餅
たしかに、あの餅菓子はお日様の匂いがしてきそう。とてもいいところに目を付けました。
175 俳号 杤尾まほ
☆三叉路は風の心臓風光る
じつは解釈の難しい作品です。と同時に、「風の心臓」といわれるとそんな気もしてくる不思議な句といえましょう。
じやんけんに負けて手ぶらや風光る
178 俳号 まつざきやすこ
風光る漫ろ歩きの丘陵地
180 氏名 岡村 典子
草餅や巻き戻さるる古時計
182 俳号 根岸さち
風光る発掘の場の猫車
184 氏名 小谷松 直子
風光る境内にふる鳥の声
195 俳号 瀬戸の風
風光る空を映して水鏡
197 俳号 水間水仙
風光る色とりどりのシーツ干し
198 氏名 疋田 ちづ子
F1の轟音走り風光る
199 俳号 おおもと文薫
うきうきと向かう図書館風光る
200 氏名 小野 千早子
足繁く通う図書館風光る
201 俳号 文月詩架
☆風光る歩き始めの靴の音
ああ、可愛い句だなと思いました。はじめの一歩をしるす幼子を見守る人々の表情が見えてきそう。
204 俳号 齊藤健一
校門の子らの背中や風光る
205 氏名 雪竹 澄子
☆風光る終の棲家と決めし谷
丘でも山でもなく「谷」。その決意のほどがうかがえ、なかなかない内容の作品だと感じました。
207 氏名 田邊 法子
風光る街角ピアノ弾く少年
215 氏名 山中 優
風光る帆翔の鳶悠然と
217 俳号 柴田康香
風光る古里の山せまりきて
218 氏名 寺田 哲子
「田舎味噌」ののれん新し風光る
221 氏名 長松 素子
風光る背に余りたるランドセル
223 俳号 渡辺 葉月
☆制帽の少し大き目風光る
制服の句はそれなりにありましたが、「制帽」は珍しい。子どもが一層幼く見える大きさが、この句のよろしさですね。
磨かれて撫牛の腹風光る
草の餅やさしきことを夫の言ふ
224 氏名 比嘉 啓文
風光る孫の喃語に癒やされて
225 俳号 山城翔雲
手作りの草餅ひとつ供えけり
228 氏名 小谷 治子
風光る鏡に映る鳥の声