講評 2025年5月

兼題「五月」「麦の秋」

総評に代えて

〇「五月」は五月です。「五月雨」「五月鯉」「五月晴」などと応用することはお勧めできません。「ごがつ」と「さつき」は全く別ものだからです。
〇「五月」を「五月来る」とするのはお勧めできません。「来る」は口語だからです。正確には「五月」ですが、それですと音数が足りませんので、どうしても使いたければ「五月ぬ」でしょう。歳時記の例句もみな、「五月来ぬ」になっています。(今回の投句で「来る」になっている句は「来ぬ」に直してあります。)
〇「五月空」という無理な表現が目立ちました。
〇「麦の秋」は、麦がみのる頃という意味で、時候の季語です。麦畑や麦の生育状況を描く必要はありません。
「爽やか」は秋の季語です。五月には使えません。
〇「許」(がり)は、もともと「~へ」という意味を持っています。ですから、「母許へ」は成立しません。

櫂 未知子

3 俳号 渡辺葉月
水色のラブレター来る聖五月
☆少し甘いけれど、ときにはこういう句も楽しいのではないでしょうか。
無人駅いくつ過ぎたる麦の秋

4 氏名 吉井 さえ子
夫と行く新車ドライブ麦の秋

5 俳号 山城翔雲
五月来ぬ森林浴で癒しつつ

6 俳号 和田正尚
麦秋の野に浮かびしや赤い屋根
教会の鐘も光れる五月かな

7 氏名 金坂 千位子
小さき手に光集めて五月来ぬ

8 俳号 清水 昭弘
麦の秋帰路の一杯沁みわたる

12 俳号 右陣平
言霊の風となりぬる五月かな

22 俳号 美風
車窓より子犬顔出す聖五月
☆犬らしい好奇心が楽しい。猫と違い、犬は移動が好きですね。

23 氏名 岡本 真苗
くすのきの優しさにふれ聖五月

25 氏名 原田 博美
風吹きておしゃべり聞こゆ麦の秋

29 氏名 波多野 由加
切り株に生命輝く聖五月

34 氏名 足立 菊子
百年の神木でんと五月かな

37 氏名 小野 千早子
制服は光の中に五月かな

41 氏名 長松 素子
コンテスト入賞逃す麦の秋

45 俳号 尚樹
さざ波に心安らぐ五月かな

46 氏名 小谷 治子
麦秋や寺に楽隊音合わせ
☆キリスト教会ではないところがいい。これからどんな楽曲を奏でてくれるのか、期待が高まります。
少年の空手の蹴りや麦の秋
三姉妹となる嬰生まる聖五月

47 氏名 疋田 ちづ子
火渡りの煙たなびき五月かな
ネコバスの子らの声する麦の秋

☆トトロゆえか、真似た猫バスが全国にあり、子ども達に喜ばれています。可愛い句。

48 氏名 津森 鈴子
通学路伸びゆく木々に五月かな

50 俳号 瀬戸の風
麦の秋影をともない旅の靴
ひとつぶの光ほどけて麦の秋

51 俳号 古蔵 花音
食卓に山菜並ぶ五月かな

52 俳号 水間水仙
校庭の笑いはじける五月かな
麦の秋クロワッサンが香り立つ

53 氏名 山本 厚子
紫の筑波嶺けぶる五月なり

54 氏名 北村 貞子
五月には五月の色を装ひて

56 俳号 につこり月子
故郷に似た村のあり麦の秋

58 氏名 山﨑 三十子
風わたる五月の杜に子らの声

60 俳号 城下早苗
ペダル漕ぐ夫の背を追う麦の秋

61 俳号 根岸さち
第九合唱結団式や聖五月

62 俳号 三貴子
五月なり風に乗る鳥風まぶし

64 氏名 平田 和美
ベビーカーの手足動きし聖五月
☆「聖五月」には何だか赤ちゃんが似合う。やはり聖母の月だからでしょうか。
親よりも背丈のびたる五月の夜

67 俳号 ゆやの娘
聖五月遊具静かに昼下がり
☆すごくいい句なのに字足らずでした。それで「に」を足してあります。

68 俳号 縞
上靴のまま飛び出して聖五月
☆履き替えるのももどかしく外へ走り出た若さ。生命力を感じました。

69 氏名 御手洗 陽子
麦の秋手作りパンにジャムのせて

70 俳号 NICO
来年は看護師となる聖五月
☆尊い仕事につかれる若いかた。季語がややつきすぎかもしれませんが。
十字路の電子看板麦の秋

71 氏名 松川 しのぶ
麦の秋廃校そっと包みたり

72 氏名 田邊 法子
万国旗五月の空をにぎはせて
五月来ぬ耳輪ひからせ人を訪ふ

☆ピアスでしょうか、イヤリングでしょうか。少し緊張しつつ人と会う初夏の心情がいい。
給食の献立表や麦の秋
ここよりは駅の近道麦の秋

73 俳号 屋形雅月
麦の秋墓石みがきて墓仕舞ふ

74 氏名 山田 慶子
楽しげに呼び交わす鳥聖五月

75 俳号 小野幸代
坂道にみどり眩しき五月かな

76 俳号 小西博子
空に聞く五月の旅のスケジュール
☆「空に聞く」という、ありえないことが楽しい。旅情を誘う一句です。

79 俳号 植田良穂
折りたたみ傘忍ばせて五月かな

81 俳号 二人静
道普請ともに汗かく五月かな

82 俳号 杤尾まほ
獣医師の包める薬聖五月
☆これは見かけより面白い句です。「佐藤タマ様」「鈴木チョビ様」などと書かれた薬袋も見えてきますね。
急階段踏み外しさう五月闇
乗客のわづかな駅や麦の秋

83 氏名 林 美智子
鳥達の散りばめし声五月空
一輪車置きて会話や麦の秋

84 氏名 吉田 鈴子
子供らの声晴天へ聖五月
銀輪の駆け抜けてゆく麦の秋

85 俳号 Tetsuko Terasawa
五月なる探す女と待つ男

86 氏名 小林 茂之
麦秋の道をまっすぐ我が母校
五月来ぬ窓全開の理髪店

☆美容室ではこういう句はできません。外にひらかれた「理髪店」ならではですね。
聖五月赤子の指のよく開く

87 氏名 岡村 典子
厨にも響く五月の鳥の声
山すそに白雲残る五月かな

88 氏名 林 佐知代
ナウシカのごと歩きたし麦の秋
光る橋五月の空に揺るぎなく
懸命に羽ばたく鳥や麦の秋

89 氏名 穴繁 惠美子
麦秋の川面にそよぐ水藻かな

94 俳号 おおもと文薫
ランドセルでこぼこ並ぶ五月かな

96 氏名 伊藤 美子
そよ風は五月の畑を吹き抜けり

100 氏名 横松 きよみ
トス上げて心も浮かぶ五月かな
☆テニスでしょうか、中七の浮遊感が面白い。
家中の窓開け放つ五月かな

101 俳号 長岡純子
空港は父母の面影麦の秋
部活へとおにぎり大き麦の秋

102 俳号 米崎 璃津子
故郷から届く宅配麦の秋

103 俳号 長澤きよみ
妖精の残り香森に聖五月
奉納のおほきなわらぢ風五月

☆どれだけ苦労したのだろうと思われる大きな「わらぢ」を見かけることがあります。具体的なものの強さのある作品です。
井戸底の吾に手を振る麦の秋

105 俳号 徳永恵楓
スカーフを緩やかに巻く五月かな

108 氏名 南 功治
窓越しに緑がすける五月かな

110 俳号 山﨑詩乃
塔に木に鳥の渡るや麦の秋
麦の秋人を怖れぬ烏ゐて
聖五月素敵に甘い菓子たべて

☆中七がとにかく(文字通り)素敵。俳句は表現の仕方によってずいぶん印象が変わってくることをこの句から教えられました。
ベビーカーより小さき手のでて五月かな

111 氏名 小林 真寿美
目標をふと顧みる五月かな

112 氏名 菅野 純紘
声援と和太鼓ひびく五月かな

115 氏名 足立 ひでみ
バスマットのすっきり乾く五月かな

119 俳号 伊藤京子
五月の夜子とふたりきり将棋指す

120 氏名 細川 京子
寡黙なる父の手料理麦の秋
窯元で選ぶ茶碗や麦の秋
聖五月雑事に吾は生かされて

121 俳号 伊崎宏子
麦秋の鞍馬超え来し大原女

122 俳号 秋乃雫
みどり子はまろき匂ひや聖母月

123 俳号 青木豊葉
水彩の絵筆かがやく五月かな
名をよべば口笛かへる麦の秋
バスの影見えぬバス道麦の秋
粒ほどの銀翼ひかる麦の秋

☆晴れた空をゆく機影。たとえ「粒ほど」であっても、存在感はあります。控えめだけれど華のある作品です。

126 氏名 笠倉 まゆみ
新居地に木の香ただよう五月かな

129 俳号 塩田みどり
面会は出来ず五月となりにけり

130 俳号 西田茜丸
麦の秋服を選びて福さがす

131 俳号 十勝 晴尋
白き翅愛車の屋根に五月かな

132 俳号 ゆうだち
この道を行くよろこびや麦の秋

134 氏名 塚本 富士子
山よりの水迸る五月かな
麦秋や古墳へ続く道細し

135 俳号 小栁美千代
手を繋ぐ子ら歩み行く麦の秋

138 俳号 ジツコ
風五月菜園の苗ぐんぐんと

141 氏名 西 義信
学童の足取り軽く五月かな

142 俳号 ひろこ
古墳人ここに居りしか麦の秋

143 俳号 鈴木美和子
目をつぶり五月の風を頬できく

145 氏名 原田 冨湖
平原を抜けてリヨンへ風五月

146 氏名 堀江 春代
古城にも五月の息吹誇らしく

147 氏名 駒木 典子
老いもゐる子ども食堂聖五月
☆各地にできた「子ども食堂」。でも、困っているのはひとり親世帯だけではありません。「聖五月」の「聖」に胸打たれました。働いてきたかたがたですもの。
黒猫のぬっと現る麦の秋

149 氏名 松村 幾子
もりもりと五月の山の賑やかさ

151 俳号 梓小雨
うどん屋の湯気もくもくと麦の秋

152 俳号 志方早葉
そよ風に駆け回る犬五月かな

156 俳号 岡田周子
五月来ぬ厨の窓を少し開け
踏切で貨車を見送る麦の秋

159 氏名 澤邊 義典
聖五月飛びかう鳥の声ひびき

162 氏名 小野 公柄
白き色目に止まりたる五月かな

163 俳号 富子
旅支度のメモを見直す麦の秋

164 氏名 久保田 弘子
並び干すランチョンマット五月来ぬ

165 氏名 髙 理恵
麦秋や肩で息するヒルクライム

167 氏名 千葉 明子
下校時の声賑かに麦の秋

170 氏名 矢橋 徳子
新しき傘と長靴五月かな

171 氏名 小谷松 直子
麦の秋子のプロポーズ二人乗り

172 俳号 岡本清髙
南鉄のトロッコ列車麦の秋

173 俳号 七宝猫
神宮に五月の風が吹き渡る

175 氏名 木本 和子
カレンダー捲る向こうの空五月

176 俳号 山本五之三
助手席のホールケーキや麦の秋
☆何かのお祝い事があるのでしょうか、「ホールケーキ」とは楽しい。はればれとした味わいがあります。

178 俳号 桜井 伸
馬の背に風かがやける五月来ぬ
高みより鳥の声降る聖五月
眼裏に光溢るる五月かな

179 氏名 川原 厚子
麦秋の車窓のくもる深呼吸

181 俳号 柴田康香
運動靴足早に行く五月かな

183 俳号 みーたま
どこに行くバスに揺られて麦の秋

184 氏名 百留 博子
草花で冠作る五月かな

190 俳号 川端日出子
ラムネ菓子口に入りたる五月かな
三輪山の裾野明るき麦の秋

191 氏名 藤川 知之
犀の角五月に独り吾れ進む

192 氏名 荒木 弘子
青き匂い絵より伝わる麦の秋

200 俳号 西山レモン
炭酸に喉を潤す麦の秋

202 俳号 富海善風
早五月まだ手付かずのあれとこれ

204 氏名 岡田 慎太郎
麦の秋彼方に富嶽仰ぎ見て
☆おそらくはどこにいてもついてまわる「富嶽」。わずらわしいというより、頼もしい存在なのでしょう。
雨やみて自転車でゆく五月かな
連峰の裾野はあはし麦の秋

205 氏名 西野 悦子
万物の清々として五月かな
白川てふ美しき村麦の秋

211 俳号 矢羽田 兎美
麦の秋風の形を捉えたり
水しぶきあびて笑顔の五月かな

212 俳号 水島五月
制服の子ら足早に麦の秋
ヘッドホン外して歩む麦の秋

☆見渡せば、手元はスマートフォン、耳には「ヘッドホン」という人の何と多いことか。ときには全てから逃れ、五感を総動員して歩みたいものですね。

215 俳号 カモミール
見せてくれる新居の模型風五月

216 俳号 大樹佐保
恩師待つ肥前鹿島へ麦の秋

217 俳号 佐藤香通雪
樹々香るに長居せる五月かな

219 氏名 清水 純子
かごを手にリヤカーに乗る麦の秋