講評 2025年6月

兼題「風鈴」「さくらんぼ」

総評に代えて

〇季語はなまものです。したがって回想の中の季語や絵手紙に描いた季語は、季語とはいえません。
〇一字あけはやめましょう。標語になってしまいます。
〇「爽やか」「小鳥」は秋の季語です。ご注意を。
〇下五に「や」を置く例が目立ちました。句が不安定になりがちですので、できるだけ避けてください。
〇風鈴は舞いません。
〇風鈴の句にまた「風」を入れるのは避けてください(それでも頂いていますが)。
〇風鈴と「涼し」をセットにするのはやめましょう。風鈴そのものが涼を感じる季語だと認知されているからです。
〇さくらんぼのことを詠むのに桜の木をいう必要はありません。
〇パフェ、プリン、ソーダ水、あんみつ等に添えられたさくらんぼは季語としてあまり力を持ちません。
〇さくらんぼの種を飛ばし合うのは、西瓜の時に任せましょう。
〇さくらんぼが店頭にある、という句がありました。本当は店の奥のはずです。触られては困るので。
〇さくらんぼはふつう、パック売りです。ばら売りは産地でもない限り、ありません。
私は、山形ほど有名ではありませんが、北海道内のさくらんぼの産地で育ちました。さくらんぼは雨を大変嫌います。そのためにテントを掛けるほどです。したがって、「雨粒にきらめくさくらんぼ」は商品価値がないと思ってください。

櫂 未知子

4 俳号 西谷喜代
屋台にて風鈴売りし音色聞く

5 俳号 待元明子
さくらんぼ枝ごともぎてくれし友

7 氏名 長松 素子
さくらんぼ穫る人もなき実家かな
風鈴や千の願いの音がする

9 俳号 弘子
子等作る風鈴風に音淨し

10 俳号 ひまわり
さくらんぼ桐の箱入娘かな

15 氏名 榊原 妙子
それぞれの風の色なる風鈴の音
はにかみて抱かるる孫やさくらんぼ

17 俳号 上田民子
遠くから夜半風鈴聞こえけり

21 俳号 渡辺 葉月
とほき人とほき日のこと貝風鈴
風鈴にけふ初めての風来る
さくらんぼかけがへのなき色なりけり

22 俳号 和田正尚
風鈴や灯りの中の法善寺
風鈴や白波立てし吉野川

23 俳号 柿崎つよし
海岸や風鈴鳴らす風来る

25 俳号 松真
あの人がさくらんぼ持て来たりけり
風鈴の音はどこから隣から

28 氏名 小谷 治子
風鈴を吊るし日記の始まれり
風鈴の風は水色母恋し

31 俳号 津島まあや
ご近所の風鈴の音(ね)の心地よき

34 氏名 田邊 法子
風鈴や眠りの底に音曳きぬ
軒風鈴かくも縮みしわが背丈
☆さくらんぼ熟れて盆地の人優し

「盆地」がとにかくいい。気候の厳しい地だからこそ、良質なさくらんぼを産することが可能なのでしょう。

37 俳号 中田澄光
まらうとの来たるが嬉しさくらんぼ

38 俳号 諸岡幸恵
風鈴に願いを込めて奉納す

39 氏名 伊藤 美子
風鈴に願いを託す窓なりき

41 俳号 文月詩架
いくつもの音連ねしや軒風鈴
一粒を味はふ母のさくらんぼ

44 俳号 中村 千恵子
さくらんぼ走れメロスを孫と読む

45 俳号 につこり月子
☆三姉妹一人になりてさくらんぼ
何とも寂しい。しかし、年齢には抗えないのでしょう。先に逝くほうが勝ちなような気がしてきました。

47 俳号 水間水仙
店先を行きつ戻りつさくらんぼ

49 俳号 福嶋美智子
風なき日風鈴そっと手で揺らす

50 俳号 三貴子
いっせいに揺れる風鈴京の町

51 氏名 小牧 正人
さくらんぼ光り輝く甘さかな

53 氏名 檜山 仁美
風鈴や祖母の気配を感じたり
にぎやかな双子三つ子のさくらんぼ

54 氏名 津森 鈴子
青空にほほの光るやさくらんぼ

55 氏名 北村 貞子
☆寒河江へと向かふ車にさくらんぼ
さくらんぼが特産の町へ向かう車に、なぜかさくらんぼが載っている……謎多き作品でした。

56 俳号 小平笑夢
風鈴の響く心は浄土なり

57 氏名 岡村 典子
風鈴や一瞬の風見のがさず
福分けの繫ぐ笑顔やさくらんぼ

58 俳号 金坂千位子
さくらんぼ跡継ぎのなき里の家
風鈴や仕舞いしままの手紙あり

60 俳号 杤尾まほ
群青の津軽風鈴水匂ふ
☆店番は三人の姥軒風鈴

おそらく、相当な賑やかさだろうと想像できます。俳句において「三人」の老女は無敵です。
桜桃や声の大きな北のひと

62 氏名 山本 厚子
風鈴や急ぎ足なる下駄の音

63 俳号 石原佐和子
又一つ又さくらんぼ幸せに

68 俳号 瀬戸の風
子の寝息風鈴ひとつゆるやかに

69 氏名 疋田 ちづ子
竹ふうりん父の昼寝に寄り添いて
(昼寝も季語です。ご注意を)

70 氏名 穴繁 惠美子
さくらんぼ鈴ふるごとく食べにけり

71 俳号 塩田みどり
とびきりと思ふ一箱さくらんぼ

76 氏名 笠倉 まゆみ
風鈴を吊るす父の背小さくなり

77 氏名 小林 真寿美
風鈴を愛づる夫と昼下がり

78 氏名 松川 しのぶ
幼子の指のすき間のさくらんぼ
風鈴や姿なき風明かしたり

79 氏名 細川 京子
風鈴や母のみ胸にゐるやうな

82 俳号 米崎 璃津子
路地裏は風の道筋風鈴鳴る
一人居を守る風鈴を吊り下げて

86 俳号 輝輝
☆さくらんぼ新幹線で狩りに行く
なかなか元気のいい句。豪勢です。
風鈴や夫の脛の痩せており

88 氏名 山﨑 三十子
若き日の想い出添えてさくらんぼ

91 氏名 駒木 典子
さくらんぼ同窓会は古希の顔

93 氏名 塚本 富士子
駄菓子屋に吊りし風鈴風のみち

94 俳号 伊崎宏子
老いの手にちょつびりのせるさくらんぼ

96 俳号 古田 啓
見上げれば幸せ満つるさくらんぼ

97 俳号 浦嶋和子
さくらんぼ器量比べの箱の中

99 氏名 林 美智子
弟を背おいし兄やさくらんぼ

100 氏名 吉田 鈴子
☆風鈴の音色かそけき夕まぐれ
下五、なかなか美しい言葉です。夕暮、夕まぐれ、夕さりなど、時刻をあらわす言葉には思いがけないほどのバリエーションがあります。
さくらんぼ一粒ごとの甘さかな

101 氏名 平田和美
風鈴の静かな夜を守りけり

102 氏名 小野 千早子
☆新聞に休刊日ありさくらんぼ
さくらんぼは取り合わせが難しい季語です。でも、この句のように何気ない日常とさらりと合わせるのもいいですね。

103 俳号 屋形雅月
風鈴や夜のしじまに星ひとつ

106 氏名 菅野 純紘
風鈴や夫婦二人のわらべ唄

107 俳号 稲川優子
☆みなぎりて光を返すさくらんぼ
まだ木にあるさくらんぼなのでしょうか。上五のいきなりの入りかたがかなりいい。

108 俳号 有海映子
風鈴や独り暮らしの窓に揺れ

109 俳号 青空
それぞれの風鈴の音の風の中

112 俳号 柳光 みかづき
風鈴の音に浄まるわが身かな

113 氏名 横松 きよみ
風鈴や寝そべる猫と風を待つ

115 氏名 小田川 浩三
風鈴や駅のホームで客迎え

117 俳号 みーたま
風鈴の色無き音の無色なり

118 俳号 青木豊葉
☆つぶなぎを上げて風鈴吊しけり
「つぶなぎ」は踝(くるぶし)の古称。いい言葉を見つけたと思います。
風鈴や入り日やうやく山の端に

119 俳号 長岡純子
風鈴の一気に故郷つれて来む

120 俳号 二人静
語らいて仲良き姉妹さくらんぼ

122 氏名 小林 茂之
☆風鈴を吊るして終の住み家かな
言葉のバランスのとても良い句。声高ではない決意が感じられました。
風鈴の江戸の文化の音色かな
一村の風をあつめてさくらんぼ

124 俳号 齋藤弘子
さくらんぼ一粒口に便り読む

127 俳号 北見薄荷
☆昼下がり風鈴の音渋滞す
無風で、鳴りそうで鳴らない状態なのでしょうか。少し難しい句ではありますが。

128 氏名 百留 博子
風鈴や風のあいさつ軒下で

129 氏名 堀江 春代
風鈴も風に音色をまかせおり

130 俳号 ゆうだち
負けじとて走る少女やさくらんぼ

133 氏名 富永 美智子
鉄風鈴父の面影懐かしむ

134 俳号 鈴木美和子
妹の心遣いのさくらんぼ

136 氏名 林 佐知代
☆妖精のキスを集めてさくらんぼ
そういわれるとそんな気がしてくる作品です。あの愛らしい果実は「妖精」がもたらしたものかも。
風鈴や碁盤を前に友を待つ

138 俳号 Tetsuko Terasawa (寺澤哲子)
☆青春の片隅にあるさくらんぼ
回想句ぎりぎりではあります。ほどほどの甘さがいい。

142 氏名 木本 和子
☆風鈴や家族増えたる賑はいに
何ともめでたい。赤ちゃんの声と風鈴の音色が競いあっていそう。
風鈴や急かされて立つ夕厨

144 俳号 前田 椛
休日や風鈴の音に癒されて

145 俳号 伴 めぐみ
風鈴の音色遠のく夢の中

147 俳号 西村せつ子
さくらんぼ仏さまへと初供え

148 俳号 春うらら
風鈴や昼と夜との境界線

151 俳号 祐操
楽しみは退院してのさくらんぼ

152 氏名 財津 副代
風鈴の鉄の響きの懐かしく

153 氏名 藤川 知之
初恋の味に近いよさくらんぼ

154 俳号 白尾恵子
憧れのパック買いせりさくらんぼ

156 俳号 山﨑詩乃
さくらんぼ強き男の涙声

157 俳号 おおもと文薫
にっこりと皿いっぱいにさくらんぼ

158 氏名 桑原 堆子
風鈴や縁の親子は寄り添いて

159 俳号 徳永恵楓
隣から風鈴の音のおすそ分け

161 氏名 原田 冨湖
テーブルの中心占むるさくらんぼ

162 俳号 桜井伸
風うすく風鈴撫でてゆきにけり
☆風鈴や蕎麦屋の暖簾くぐるとき

気負わず、なかなかいい句だと思いました。ただ、他のかたの作品にもたくさんありましたが、なぜ風鈴というと蕎麦屋や蕎麦が取り合わせられやすいのでしょう。
宿題はそのままにしてさくらんぼ

163 俳号 十勝 晴尋
桜桃を口に頁を捲るかな

165 俳号 末博子
孫達に父植えし木よさくらんぼ

167 氏名 檜山 八穗子
風待ちて軒の風鈴閑かなり

168 俳号 田中多加代
一列に音色それぞれ風鈴屋

170 氏名 山口 賢次郎
風鈴の音に東屋で一休み

172 俳号 秋乃雫
さくらんぼ不老妙薬めける艶

173 氏名 川原 厚子
駄々っ子や手のひらにほらさくらんぼ

178 氏名 御手洗 陽子
風鈴やのど越しつると二八蕎麦

179 氏名 久保田 弘子
☆星無き夜風鈴のふと一つ鳴る
ちょっとどきりとしたのでしょう。魂の訪れでしょうか。
母の手に雫も光るさくらんぼ
柔らかい君の手のひらさくらんぼ

180 氏名 伊木 秀明
☆晴天に妻の退院さくらんぼ
何ともめでたい。お見舞いに頂いたさくらんぼを心おきなく食べられるのでしょう。

184 俳号 山本五之三
☆風鈴や父の日記の誤字脱字
達筆ではなく「誤字脱字」。気取らぬ良さがある句です。
風鈴に応えて楽し独り住み

185 俳号 富海善風
絵心を呼び覚ましけりさくらんぼ

187 氏名 西野 悦子
澄みわたる風鈴の音や色鍋島

191 俳号 佳月
勇気出し手にとるパックさくらんぼ

192 俳号 梓小雨
一粒で笑顔にさせるさくらんぼ

195 氏名 吉川 三郎
風鈴と潮風におう坂の町

196 俳号 兵頭光子
風鈴や叔父を弔う音のごと

198 俳号 宮﨑理恵
日米の饗宴ありぬさくらんぼ

200 俳号 浦崎まゆみ
風鈴の一語一語に耳すまし

202 氏名 髙 理恵
風鈴や縁側で祖母内職す
風鈴や家族で歩く裏草津

203 氏名 本間 勝
雨粒をきらりと受けてさくらんぼ

204 俳号 小池聖明
風鈴や夫婦ですする蕎麦の音

207 俳号 川端日出子
生涯を箱入り娘さくらんぼ
風鈴や手水器吊るし母の里

209 氏名 岡田 慎太郎
兄弟のキャッチボールやさくらんぼ
色々の赤色のありさくらんぼ

210 氏名 川喜田 千加代
☆さくらんぼ合わせ鏡の夫婦かな
双子の姉妹になぞらえた句はたくさんありました。しかし、「夫婦」は少し謎があり、面白い。

212 俳号 カモミール
☆遥かなる父母のこと夜の風鈴
字余りではありますが、「夜の風鈴」が面白い。少し寂しい句です。
幼子の覚えし二つさくらんぼ

214 氏名 藤原 克敏
風鈴に合わせて吐くや息の音

215 氏名 谷脇 照美
風鈴や子離れやっとできたらし

216 氏名 千葉 明子
ふるさとの鉄風鈴や風を待つ

217 俳号 水島五月
☆さくらんぼ届きて無事を喜びぬ
あらゆる到来物のうち、おそらく一番嬉しいのがさくらんぼ。お互いの息災を確かめている楽しさがあります。
風鈴や硝子の音の降り注ぎ

218 俳号 寺崎美知恵
風鈴やあの音この音の船着き場

219 俳号 長澤きよみ
☆歌麿の短冊の反り江戸風鈴
大河ドラマにちなんでいるのでしょうか。尾を引かぬ「江戸風鈴」の音がぴったり。

220 氏名 前原 由美子
☆飛行機に乗ってきたのか さくらんぼ
つまりは空輸されたということなのでしょうが、こういわれると何やらおかしさがこみあげてきます。

222 俳号 縞
住みかわり風鈴掛ける家となり
さくらんぼ一粒ごとに陽の光
☆太陽の赤集まってさくらんぼ

正面からさくらんぼに取り組んだ句。値段の高さ云々を一切言っていないところが評価できます。