講評 2025年7月
兼題「日傘」「夏の蝶」
総評に代えて
〇春の「蝶」と「夏の蝶」の違いをはっきりさせていただきたいと思いました。春は可憐さ、夏は大きさやそれなりのたくましさがあります。
〇蝶といえば「ひらり」はそろそろ卒業しましょう。
〇「傘の花咲く」「色とりどりの傘」も卒業しましょう。
〇日傘といえば回したくなりますが、すでに百万句ぐらいあります。
〇「涼を求めて日傘さす」は季語の本意を無視しています。季語自体にその意味がすでに入っていますので、「日をさえぎる」「涼を求めて」「暑さを避けて」「日陰をつくる」などは、すべて不要です。
2 俳号 愛卓
夏の蝶光あれとの声に飛ぶ
4 氏名 堀 美和子
☆夏の蝶卒寿の父の追いかけおり
童心にかえった父上なのでしょうか。ほほえましく、少し切ない句でした。
5 俳号 渡辺 葉月
☆検診を終へて日傘を高く掲ぐ
下五の字余りがかえって解放感をうまく表現しています。楚々とした姿の描かれることの多いこの季語にしてはとても珍しい内容でした。
一回り大きな夫の日傘かな
7 氏名 寺田 哲子
山坂のふたり追い越す夏の蝶
8 俳号 松本真智子
☆友寄れば数だけ開く日傘かな
ちょっと舌足らずなところが惜しい。「友寄れば友の数だけ」でじゅうぶん伝わります。
11 俳号 春うらら
翅の呼吸ゆっくりとなり夏の蝶
12 氏名 星谷 絹代
街中に増えてをります黒日傘
13 氏名 雪竹 澄子
日かげれば杖ともなりて日傘かな
14 俳号 待元明子
白き道遠ざかりゆく日傘かな
16 俳号 山城翔雲
楽園をひらひら飛ぶや夏の蝶
17 氏名 足立 ひでみ
帽子より日傘を好む八十路なり
夏の蝶敏捷なるや空へ発つ
22 俳号 福嶋美智子
日傘さす上にひとすじ飛行機雲
息を呑む突然青い夏の蝶
23 俳号 柴田康香
ひとまわり大きくなりて夏の蝶
25 氏名 嘉陽 恵美子
☆翅広げ綺麗でしょうと夏の蝶
やや自意識過剰ぎみの夏蝶。たまにはこういう句も面白いものです。
26 氏名 小谷 治子
母と子の日傘のうしろ犬も従く
29 俳号 文月詩架
たおやかに北の空行く夏の蝶
31 氏名 田邊 法子
☆日傘さし街の喧騒遠ざける
自分だけの聖域を日傘でつくる、これはとてもうまい句です。実際に遠ざけることは難しいのですが、ここでは心理的な距離をいっているのでしょう。
32 俳号 根岸さち
ゆつくりと花を選びし夏の蝶
33 氏名 中野 尋恵
相方にそっと差し出す日傘かな
夏の蝶幸運はこぶ兆しかな
34 氏名 田近 代子
窓に来る夏蝶はかの亡き夫か
35 氏名 山中 優
「行ってきます」笑顔の吾子の手に日傘
36 俳号 西山レモン
日傘さし仏像拝す都かな
38 氏名 小林 真寿美
亡き父のすべてを抱き夏の蝶
39 俳号 國井 あき
薄闇の樹皮に群がる揚羽蝶
所在なく日傘をたたむ男かな
40 俳号 にっこり月子
日傘二つ揃ひてかしぐ善光寺
道ばたの草にも名あり夏の蝶
42 俳号 白房
けふのことけふに終らせ日傘捲く
誰そ逝きしか黒揚羽の二度三度
44 氏名 中田 智子
水やりに寄り来る夕べ夏の蝶
45 俳号 浦嶋和子
日傘閉じて送る斎場の煙
夫なるや前へ後ろへ夏の蝶
47 氏名 長松 素子
赴任地で夫買いくれし日傘かな
48 氏名 畑畠 美千代
花の中羽を合わせて夏の蝶
49 俳号 水間水仙
亡き人の眼差し感じ夏の蝶
絵本読む窓辺に来たる夏の蝶
☆日傘さす男子学生颯爽と
男性と日傘の取り合わせの句はたくさんありましたが、この句のように堂々たるものは案外ありませんでした。
51 氏名 伊藤 美子
誰を待つ線路の上の夏の蝶
52 俳号 山城康佑
息子からもらいし日傘役立ちぬ
53 俳号 三貴子
鱗粉を指に残した夏の蝶
54 俳号 古田 啓
さぁ冒険ドレス広げて夏の蝶
55 俳号 金坂千位子
白日傘いまさら怒ることもなし
57 俳号 清水 昭弘
ひらひらとこの世の夢を夏の蝶
59 俳号 蒲公英
一瞬で山を越えたり夏の蝶
60 俳号 喜久美
ブルーインパルス見上げる空に夏の蝶
62 氏名 山﨑 三十子
道の駅日傘回して並びおり
64 俳号 岡本清髙
世継橋母と娘の日傘かな
66 氏名 北村 貞子
あげは蝶羽かわく間も見守りぬ
67 氏名 比嘉 啓文
日傘さし空の青さに急ぐ足
68 俳号 和田正尚
夏蝶はまるで従者のようになり
69 俳号 瀬戸の風
夏の蝶鳴る遮断機を越えてゆく
70 氏名 南 功治
水音や優雅に去りし夏の蝶
73 俳号 石田恵子
あと一点日傘たたみて息を呑む
77 俳号 杤尾まほ
境内の案内つとめ夏の蝶
異国語の珈琲屋台夏の蝶
78 氏名 岡村 典子
万博の空に日傘の集ひけり
83 俳号 高島實子
卒寿にて日々新たなり夏の蝶
86 氏名 吉田 鈴子
夢殿へ向かふ日傘のくるくると
木々の間に二羽の揚羽の絡み合ひ
高く低く庭を自在に夏の蝶
87 俳号 齋藤弘子
夏蝶や風の間に間に現はるる
90 氏名 辻井 裕子
☆老いの手に白きレースの日傘かな
皺の多い手、そして白く輝く日傘。対照的だからこそ両方美しく見えるというよき例です。
92 氏名 木村 絢子
夏の蝶野球ベンチに仲間入り
93 氏名 小林 茂之
湖畔への道のなだらか白日傘
☆夏蝶の話しかけたくなる高さ
春と異なり、夏蝶はかなり自在に舞います。ご自分の位置に引き付けた、とてもすばらしい作品だと思いました。
亡き子にもある誕生日夏の蝶
94 俳号 渡辺あや
ドッグランひらりとかはす夏の蝶
95 氏名 藤田 清美
去って行く新幹線と夏の蝶
97 氏名 宮沢 ゆかり
通勤の坂道に咲く日傘かな
100 氏名 細川 京子
☆白日傘少しシネマの人となり
かなりお洒落な作品です。映画のワンシーンの気分になりきる、それも日傘の持つ魔力かもしれません。
額縁をひたとあてたき夏の蝶
101 氏名 津森 鈴子
夏の蝶花選びては羽広げ
102 氏名 笠倉 まゆみ
夏の蝶大輪揺らし止まりけり
104 氏名 林 美智子
もつれ合い高き空へと夏の蝶
105 氏名 谷脇 照美
狐雨ぱらぱらときて日傘かな
107 俳号 輝輝
新しき日傘買いたる長子かな
108 俳号 村松みゆき
へたり込む犬の散歩へ夏の蝶
109 俳号 米崎 璃津子
日傘高く高く故郷へ一本道
110 氏名 檜山 八穗子
夏蝶の吾と渡るや跨線橋
115 俳号 青木豊葉
一斉に日傘をとづる停留所
大鳥居くぐる日傘の影みじか
女子寮の裏門出づる黒揚羽
122 俳号 長岡純子 127 氏名
夏蝶や墓碑のまわりをたゆたうて
体型の違う兄弟夏の蝶
129 俳号 太田富子
表裏の美自ら知らず夏の蝶
132 俳号 聖子
まづ日傘たたみ瞑目父祖の墓
137 氏名 西 義信
子供らが身を寄せ合いし日傘かな
138 氏名 澤邊 義典
夏蝶や吾子の帽子に誘われて
140 氏名 駒木 典子
黒揚羽我を誘う古戦場
141 俳号 桜井 伸
☆挨拶を交わす日傘と日傘かな
かなり面白い句です。本当は人と人が挨拶をしているのですが、遠目には日傘どうしが頭を下げているように見える……いいシーンを切り取ってきました。
145 俳号 西田茜丸
思い出の日傘さしての墓参り
147 俳号 小野公柄
ぎらぎらと静かなる午後夏の蝶
150 俳号 ゆうだち
日傘して微笑む母の若きこと
151 俳号 秋乃雫
立ち昇る地熱に歪む夏の蝶
153 氏名 百留 博子
トンネルをぬけて羽ばたく夏の蝶
156 氏名 富永 美智子
空仰ぐ日傘の中に身を留め
157 氏名 財津 副代
悠々と羽を広げて夏の蝶
159 俳号 梓小雨
ジャズ響く谷の広場に夏の蝶
160 俳号 屋形雅月
朔日や日傘往き交ふ神の庭
稜線へ風を送るや夏の蝶
163 俳号 長澤きよみ
☆褒め上手自慢上手の白日傘
皮肉の一歩手前にとどめたことが、この句の価値を高めました。
週末の猫カフェ通い黒日傘
西行の玉眼きらり揚羽蝶
164 俳号 末 博子
いつまでも愛着のある日傘かな
165 俳号 伊崎宏子
打ち水にもつれ合い飛ぶ夏の蝶
166 氏名 林 佐知代
手水舎のこぼれし水に夏の蝶
169 俳号 おおもと 文薫
木々の間でちょっと休憩夏の蝶
170 氏名 小柳 美千代
中天に高く舞いたり夏の蝶
171 氏名 穴繁 惠美子
駅ホーム日傘開きて散りにけり
174 俳号 かめのこたわし
止まる場所迷うことなき夏の蝶
176 俳号 十勝 晴尋
鱗粉の光り一輪揚羽蝶
178 氏名 西野 悦子
絵日傘や折目正しく畳まれて
179 氏名 桑原 堆子
夏の蝶眼の前よぎり姿なし
180 俳号 富海善風
☆人混みに妻の印の日傘かな
皆が似たような日傘をさしている中、きちんと見分けられる夫。さりげない愛情のあらわれでしょうか。
182 俳号 Tetsuko Terasawa (寺澤哲子)
青空にさらわれてゆく夏の蝶
184 氏名 藤川 知之
雑踏に日傘たためば飛行船
186 氏名 平田 和美
もう少し見たき色なる夏の蝶
対岸で手を振る君の日傘かな
187 氏名 伊木 秀明
正倉院御物から舞う夏の蝶
188 氏名 久保田 弘子
日傘さす音楽祭の余韻あり
☆パラソルを畳みて主婦の顔となり
なるほど、パラソルは外の顔を保つためのものだったのですね。着眼点がいい。
189 俳号 山﨑詩乃
フロントガラス触れんばかりに夏の蝶
通勤の吾を日傘に押し込めて
190 俳号 冨湖
夏蝶のすいすいと越す県境
192 氏名 千葉 明子
白杖にそーっと日傘を差し掛ける
193 俳号 大樹佐保
新婚の姉に贈りし白日傘
196 氏名 藤原 克敏
道歩く妻がささげる日傘かな
201 俳号 水島五月
身を縮め日傘の下に収まりぬ
平地門を行き交いてをり夏の蝶
203 俳号 田中多加代
上に下に番いで飛ぶや夏の蝶
204 氏名 橋屋 茂美
みぎわにて羽根を休めし夏の蝶
206 氏名 矢橋 徳子
前を行く日傘持つ子の大人びて
207 俳号 岡田周子
ビル街に紳士の日傘闊歩せり
209 俳号 長尾笑元
せせらぎに夏蝶ふたつ軽やかに
210 俳号 宮﨑理恵
顔隠し日傘の人よ男性よ
211 俳号 志方早葉
幼な児を残して去りし白日傘
212 俳号 白尾恵子
源流の音に飛びたつ夏の蝶
215 俳号 橋本千蓼
海風に日傘を少し上げてみる
219 俳号 薩摩乃甘藷
境内を優雅にまわる夏の蝶
220 俳号 鈴木美和子
☆たのもしき吾の一部の日傘かな
日傘をこんなにたくましく描いた例は稀有かと思われます。
男らの姿に馴染む黒日傘
221 俳号 山本五之三
パラソルや水平線は一里先
大なゐの供養碑七つ夏の蝶
白球は田んぼに消えて夏の蝶
222 氏名 久都間 繁
遥かなり顧みもせぬ日傘かな
227 氏名 髙 理恵
幼子が追い続けたる夏の蝶
228 氏名 岡田 慎太郎
登山道知る辺の如き夏の蝶
樹液吸ふ常しへに吸ふ夏の蝶
☆男性のさす鈍色の日傘かな
鈍色、遠慮がちなさまがうかがえます。この逆に、色鮮やかなパターンで詠んでも面白いでしょう。
233 俳号 矢羽田兎海
日傘揺らし別れを惜しむ祖母独り
235 氏名 木本 和子
いづこから何処へ行くの夏の蝶
236 俳号 佳月
鮮やかに螺鈿の如し夏の蝶
237 俳号 佐藤嘉津雪
夏の蝶車の速度落とす吾
238 俳号 縞錆
☆少年の時間は無限夏の蝶
ここはやはり春の蝶ではなく、夏の蝶じゃないと……と思わせてくれた作品。生命力がはっきり感じられたからです。
揚羽蝶真昼の墓地の静かなる