講評 2025年8月
兼題「案山子」「朝顔」
総評に代えて
〇添削をして頂いた句もあります。元の句との違いを確かめてください。
〇歳時記に載っている例句そっくりの投句がありました。いいと思った句は、半端に覚えず、あくまでも先行作だということを自覚しましょう。
〇案山子の役割を説明した句は頂けません。
〇案山子といえばへのへのもへじという発想を捨てましょう。
〇朝顔の種まきや種採は、今回の兼題とは異なる季語です。単に「朝顔」といわれたら、花そのものだと思ってください。
〇朝顔は秋の季語です。お間違えなく。朝顔・昼顔・夕顔の違いをきちんと確かめましょう。
〇「色とりどり」という表現は卒業しましょう。
2 俳号 和田正尚
橿原の夕日に映えし案山子かな
6 俳号 古蔵花音
金色に頬も染まりし案山子かな
10 俳号 梓小雨
朝顔と種を比べて神秘かな
12 俳号 渡辺 葉月
☆大空へ令和の案山子胸を張る
明るくていいですね。「令和」を入れた句もぽつぽつ見受けられるようになりました。
朝顔や折り目正しき人なりき
13 俳号 高島實子
朝顔や津波情報地図ひらき
14 俳号 柴田康香
いとをかし仲良き夫婦案山子なり
18 俳号 福嶋美智子
私を見てと初咲きの朝顔
19 俳号 松本真智子
夫の服着せて案山子は柿守り
20 俳号 山城翔雲
念願の案山子探して自転車漕ぐ
21 氏名 星野 茂美
夕暮れの案山子の影と背を比べ
22 氏名 足立 ひでみ
朝顔やひとつひとつの違ふ顔
23 俳号 文月詩架
遠案山子さわわさわわと風渡り
24 氏名 山本 厚子
山畑に首かしげたる案山子かな
27 氏名 畑畠 美千代
着飾った家族の案山子愉快なり
28 氏名 伊藤 美子
朝顔のカーテン揺れる窓辺かな
30 俳号 秋乃雫
☆風吹きて案山子の右手落ちにけり
どきりとさせられますね。他に例を見ない詠みかたです。
31 俳号 清水 昭弘
案山子にも遠く祭りの太鼓鳴る
33 俳号 安永篤子
案山子にも笑みある事を天は知る
34 俳号 白房
朝顔の藍に始まる朝かな
35 氏名 西 義信
優しくも厳しくもある案山子かな
36 氏名 小谷 治子
朝顔の蔓の行方に手を貸せり
☆朝顔や普段通りの郵便夫
淡々と郵便物を届けてくれるひと。季語がよく生きています。
38 氏名 中原 京子
おはようと一期一会の朝顔に
39 氏名 小林 茂之
朝顔や飛び石渡る下駄の音
青空をひろげ朝顔咲きにけり
☆合掌をしてより案山子抜きにけり
「お疲れ様でした」と土から抜く案山子。声高ではない優しさに満ちた作品でした。
40 俳号 西村せつ子
ふたつ咲く吾子の朝顔濃紫
42 俳号 根岸さち
☆我が家への手描きの地図の案山子かな
これは楽しい句。「目印は案山子ですよ」と伝えてくれた人の茶目っ気が感じられました。
43 氏名 木本 和子
立つことの使命全う大案山子
44 氏名 北村 貞子
一列に居ならぶ案山子音もなし
45 俳号 石川明世
現代の衣まとえる案山子かな
46 俳号 金坂千位子
朝顔を遺して母は浄土へと
47 俳号 三貴子
車窓から吾子の手を振る案山子かな
朝顔や母旅立つ日けざやかに
49 氏名 岡村 典子
傾ぎても十字を保つ案山子かな
50 俳号 岡本清髙
村人のお下がり似合う案山子かな
51 俳号 伊藤京子
宿題の朝顔の花数へをり
53 俳号 水間水仙
過疎の町あちらこちらに案山子かな
54 俳号 瀬戸の風
風渡る無口な村の案山子かな
55 俳号 浦嶋和子
朝顔や伸びて絡んで花五つ
56 氏名 植森 恵美子
☆雀らを肩に乗せたる案山子かな
案山子がいても一向に気にしない雀たち。雀の愛らしさ、そして案山子のおおらかさ。
59 俳号 聖子
音楽の流れる窓や牽牛花
60 俳号 小西博子
朝顔が笑顔を連れて咲いている
63 氏名 疋田 ちづ子
薄桃の朝顔咲きて母逝く日
67 氏名 小林 真寿美
☆捨案山子空ゆく鳥を追うてをり
転がっている捨案山子の視線が何とも切ない作品です。
68 俳号 村松みゆき
出迎へは案山子の家族無人駅
69 氏名 長松 素子
朝顔や「行ってきます」と言う子あり
71 俳号 植田良穂
すぐにでも動き出しそなわら案山子
73 俳号 大久保恭子
色褪せて笑みを湛えし捨案山子
74 俳号 待元明子
朝顔やフェンスに絡む蔓強し
75 氏名 南 功治
☆葛城の山並み背負う案山子かな
歴史を秘めた山の名がよく生かされている作品でした。
76 氏名 木村 絢子
手を合わせ案山子と交わす笑顔かな
78 氏名 田邊 法子
子の着物着せたる案山子愛しめり
☆跡継ぎの決まりし家の案山子かな
子が家を継ぎ、農業を継ぐことが決まった家。近隣のかたがたの溜息が聞こえてきそうな作品です。
朝顔の花をかぞえて靴みがく
79 俳号 青木 豊葉
日の落ちて案山子の畔を帰りけり
☆ゆふやみにのつぺらぼうの案山子かな
顔のない案山子。それを不気味と思うか、いさぎよいと感じるか、読者によって受け取り方が変わってきそうな句です。とてもユニークです。
80 氏名 松川 しのぶ
空広く雀とまりし案山子かな
定年の父のワイシャツ着る案山子
81 氏名 吉井 さえ子
朝顔の自由気ままな蔓の先
83 氏名 谷脇 照美
黄昏や人かかかしか見分けざる
84 氏名 穴繁 惠美子
目をみはり天を仰げる案山子あり
87 氏名 星谷 絹代
何時の間にか残る十字の案山子かな
90 俳号 杤尾まほ
☆国道を一日眺め案山子翁
どこへも行けぬ案山子は行き交う車を目で追うしかないのでしょう。堂々とした案山子翁の姿がたのもしい。
始業ベル鳴るまで一緒牽牛花
廃材をよすがとしたり牽牛花
91 氏名 細川 京子
☆村中の寂しさ集め案山子立つ
過疎の村なのでしょう。文字通りさびしい内容なのですが、かすかに明るさもある句です。
二本足ならば旅する案山子かな
92 俳号 白尾恵子
どことなく作りてに似る案山子かな
またあした案山子の影と握手する
94 俳号 稲川 優子
朝顔の絞りの模様開きたり
95 俳号 千
朝顔が雲をつかみに伸びてゆく
96 氏名 横松 きよみ
古着着て愉しげに立つ案山子かな
98 氏名 林 美智子
山里や車窓より観る遠案山子
99 俳号 輝輝
朝顔と挨拶かわす夜明けかな
100 氏名 小野 幸代
紅の夕日背に受け案山子立つ
101 氏名 西野 悦子
朝顔の紺に優れる色や無し
107 氏名 小田川 浩三
朝顔や上へ上へと飛ぶ選手
111 俳号 おおもと文薫
休みなく守ってくれる案山子かな
112 氏名 小野 千早子
まどろみの中に朝顔りんと咲く
116 俳号 小野公柄
☆われも又同じ衣の案山子かな
少しだけ複雑な心境?楽しい作品です。
117 俳号 福徳
駆け寄りて道尋ぬれば案山子なり
118 氏名 吉田 鈴子
ぽつねんと案山子佇む里の暮
山の端に鴉一声捨案山子
119 俳号 寺崎美知恵
古着なる案山子の肩に集う鳥
124 俳号 米崎 璃津子
朝顔の花数きのう今日あした
126 俳号 美紗
ふるさとの絣やさしき案山子かな
131 氏名 檜山 八穗子
母のシャツ着せし案山子を父立てぬ
たそがれて少し傾く案山子かな
132 氏名 木村 裕子
先端の朝顔を風吹き抜ける
134 氏名 菅野 純紘
朝顔やラジオ体操時知らす
139 俳号 野原
朝顔や自由気ままにつるの先
140 氏名 林 佐知代
猫柄のTシャツまとう案山子かな
142 俳号 Tetsuko Terasawa (寺澤哲子)
野良着きせ父に似せたる案山子かな
143 俳号 恵子
夕暮れも帰る家なき案山子かな
144 氏名 笠倉 まゆみ
帰りゆく鴉見上ぐる案山子かな
案山子立つ帰りの子らのハーモニカ
145 俳号 西田佳代
よく見れば案山子の服が破れをり
146 俳号 中村 千恵子
母に似た顔の案山子に雀二羽
147 俳号 塩田みどり
三日月にうなだれてゐる案山子かな
149 俳号 ゆうだち
鳥獣も虫も案山子も天の下
151 俳号 北見薄荷
半島の案山子は肩にかもめ乗す
152 俳号 長澤きよみ
朝顔の喇叭鳴りさう勝手口
153 氏名 黒岩 雅弘
ぼろぼろの案山子の守る田畑かな
154 俳号 冨湖
手を広げおおらかに立つ案山子翁
155 氏名 千田 洋子
蔓伸びて咲く朝顔の寄る辺なき
157 俳号 清水 明浩
朝顔の巻き付く支柱間に合わず
159 俳号 鈴木美和子
賑やかな朝顔の声そこかしこ
164 俳号 長岡純子
こんにちはと声かけそうに案山子かな
165 俳号 山﨑詩乃
朝顔や泣く子上手にあやす母
166 氏名 駒木 典子
☆朝顔を幼数へる二十まで
その子が数えられるのは二十が限度?かわいい作品です。
立ち並ぶ百の案山子や土匂ふ
168 俳号 末 博子
山村の人より多き案山子かな
169 俳号 浦崎まゆみ
また明日案山子に隣る夕日影
172 氏名 小柳 美千代
朝顔や雫の垂れて光りける
朝顔の我より先に起きにけり
176 氏名 川原 厚子
ため息に寄り添う風や案山子道
177 俳号 青空
日光や青き朝顔咲き誇り
178 氏名 山口 賢次郎
なんとなく父に似ている案山子かな
179 氏名 平田 和美
人よりも案山子の多き村となり
180 俳号 にっこり月子
母の服父の帽子の案山子立つ
朝顔やこの道行けば漁港あり
181 氏名 藤川 知之
朝顔のいのち意外と長いから
186 氏名 澤邊 義典
牽牛花フェンスを越えて新世界
188 氏名 久保田 弘子
☆朝顔の紺や歩みの軽くなり
紺がきりっとしていていい。よいスタートの一日だったのでしょう。
189 俳号 おふさ観音雨堤
朝顔とラジオ体操共にあり
190 俳号 山本五之三
案山子立つ平野を渡る山の風
朝顔や物干しのシャツ色褪せて
191 氏名 矢橋 徳子
どさんこが草食む原の案山子かな
195 氏名 髙 理恵
坂道を下れば見ゆる案山子かな
198 俳号 いけした きよこ
金色の田んぼ見守る案山子かな
204 俳号 縞錆
☆朝顔の色のすべては空にあり
なかなか思い切った断定のされている句です。たしかに、青や紺、赤っぽい色など、朝顔は天の賜物のような花ですね。
205 俳号 桜井伸
あかときの星と向きあふ牽牛花
朝顔のひかりを返すしづくかな
☆朝顔や子供の声の通りたる
さらりと詠まれていて好感を持ちました。昼顔や夕顔では出せない世界がこの句にはあります。
210 俳号 兵頭光子
夕闇に遠き笛の音聞く案山子
211 氏名 岡田 慎太郎
☆顔のなき案山子を撫づる女の子
その子にとって、この案山子はかなり不思議な存在だったのでしょう。心の中で目鼻を描いてあげているのかもしれません。
子供らの一歩却く案山子かな
212 俳号 川端日出子
見そびれて萎む朝顔惜しみけり
213 氏名 久都間 繁
陽が落ちて案山子と遊ぶ狐かな
218 俳号 水島五月
敬礼をしたまま傾く案山子かな
夕日落つ案山子の頬に泣きぼくろ
☆パーカーに身を包みたる案山子かな
かつてよく詠まれた「野良着をまとっている案山子」ではなく、パーカーですから、都会に出ていってしまった子どもの古着なのかもしれません。時代の移り変わりを感じる作品でした。
219 氏名 河崎 柳子
朝顔や作業小屋には早二人
220 氏名 前原 由美子
月さしてすずめと眠る案山子かな
222 俳号 カモミール
田の神を宿せる案山子なりしかな
224 俳号 薩摩乃甘藷
おはようと案山子と交わす胸の中
